« ふたりのポンタ | トップページ | シナリオ「ただいまの日」 »

シナリオ「博多夢幻街」

◆あらすじ
 サークル合宿で福岡に訪れた美雪と勇太は、中州の屋台で店主から佐久間を紹介される。
 佐久間と一緒に入った店で、勇太は『行列に並ぶな』という壁の表示を見つける。書いたのは佐久間だった。佐久間の話を聞く美雪と勇太。
 佐久間は偶然道に書いてあった『行列に並ぶな』と『行列はこちら』という表示を発見する。行列の場所を突き止めた佐久間は、行列に並び店に入った。
 やがて待合室に呼ばれた佐久間は、中で鈴木さんと会う。その後特別ルームに案内され飲み物を飲んだ佐久間は意識を失い手足を拘束された。ドクターDに安楽死注射をされた佐久間は呆然と店を出る。
 一緒に店を出た鈴木さんは「この喜びを誰かに伝えたい」と『行列はこちら』という表示を書き、佐久間は怒りから『行列に並ぶな』と書いた。美雪と勇太は佐久間が死者であることを知る。
 帰り道、二人は『行列はこちら』の表示を見つける。店についた二人は行列に並び入店してしまうのだった。

◆登場人物表
美雪(20) 東京から来た大学生。佐久間から不思議な体験を聞く
優太(20) 東京から来た大学生。佐久間から不思議な体験を聞く
佐久間(50) 美雪と勇太に行列店に関する不思議な体験を話す
鈴木(65) 行列店で佐久間が出会った男
ボーイ(30) 行列店で客を案内する係
看護師(50) 行列店でドクターDの補佐をする
ドクターD(60) 行列店で安楽死注射をする闇医者
店主(55) 屋台のラーメン店主
マスター(45) バー店員

 

◆本編
   夜の雑踏を歩く美雪と優太。
美雪「優太、もう帰るの? 中州のラーメン食べるっていう約束したじゃん、ねえ」
優太「美雪、もう夜の十一時だぜ。明日は東京に戻るんだから、宿に戻る方がいいって」
美雪「優太! せっかく福岡に来たのに、屋台に行かなんて友達に自慢できないよ!」
優太「(嫌そうに)えー!」
美雪「食べたらすぐに帰ろ! ね!」

 

   店主、ラーメンを出す。
店主「ラーメン二つ、どうぞ」
美雪「やった! いただきます! ……本当に美味しい。来て良かったね」
優太「俺、まだ食べてないよ」
美雪「早く食べなさいよ。ほらほら、ほら!」
優太「猫舌なんだよ!」
店主「仲良いね! 大学生かい?」
美雪「はい。東京の大学です。ジャズバンドサークルの合宿で福岡に来ました」
店主「ジャズバンド?! そういや、佐久間さんも、ジャズバンド経験者じゃないかな」
優太「佐久間さん?」
店主「ほら、噂をすれば」
   佐久間がやって来る。
佐久間「こんばんは。オヤジ、いつもの」
店主「今、佐久間さんの話を、東京から来た若い二人に話していたところだよ」
優太・美雪「こんばんは」
佐久間「私の話なんて止めてくれよ」
店主「この二人ジャズバンドしてるんだって」
佐久間「いいね! 君たち、時間ある?」
美雪「今?」
佐久間「博多にお勧めのジャズバーがあるんだ。夜中の十二時からオープンする」
美雪「優太、行ってみよう。明日には東京に戻るんだしさ、今しか行けないって」
優太「夜中にオープンってやばくないか?」
美雪「やばくない、やばくない」
佐久間「決まれば、早速行こう」

 

   お洒落なジャズが流れる店。
佐久間「生演奏のお店はいいもんだろう」
美雪「佐久間さんは演奏されるんですか?」
佐久間「いや、俺はもっぱら聞く専門だよ」
優太「ちょっと、佐久間さん」
佐久間「なんだ」
優太「僕、今、トイレに行ってきたんですけど、壁に変なのが書いてありましたよ」
佐久間「ああ、あれね(少し笑う)」
美雪「優太、何て書いてあったの?」
優太「『行列に並ぶな』って」
美雪「行列? 何の行列?」
佐久間「あれは私が書いたんだ」
美雪「佐久間さんが? どういう意味?」
佐久間「話せば少し長くなる。マスター! 二人に良い酒を出してくれ」
マスター「かしこまりました」
佐久間「一ヶ月前くらいのことだ。私は東京で働く商社マンで、出張でここに来たんだ。途中、休憩で喫茶店でコーヒーを飲んでいたんだ。窓際で道路側を見ていた時、歩道橋の下に、気になる表示に気づいたんだ」
美雪「表示?」
優太「何が書かれていたんです?」
佐久間「『行列に並ぶな』」
優太「僕がさっきトイレで見たのと同じだ」
佐久間「そう。気になった私は店を出て、表示を確認したんだ」
美雪「で、その表示はあったんですか?」
佐久間「あるにはあった。だが、そばには『行列に並ぶな』ではなく『行列はこちら』って矢印も書かれていたんだ」
美雪「矢印に従えば行列に並べるってこと?」
佐久間「その通り。私は矢印の方向に向かって歩いて行ったんだ」
優太「あったんですか? 行列」
佐久間「まあ待て。街角とは不思議なもので、普段は気付かないような道路の片隅に、沢山の表示を見つけたんだ。『行列に並ぶな』と、『行列はこちら』という二つの表示を」
美雪「『並ぶな』と『こちら』。混乱しますね」
優太「で、佐久間さんは『行列はこちら』っていう表示を探したんですよね?」
佐久間「その通り。私は街のあちこち表示を探して歩き回った」
マスター「お酒をどうぞ」
美雪「ありがとうございます」
佐久間「街をくまなく探し回った私は、その日の夜ついに行列の場所を見つけたんだ」
美雪「何だったんですか?」
佐久間「店の入口は喫茶店のようだったが、看板は無くて、店の表には数人が並んでいた。私はそこに並んでみることにした」
優太「ついに行列に並んだんですね」
佐久間「そうだ。並んで数分経った頃、店の中からボーイが出てきて、全員を中に招き入れた。当然私も中に入った」
美雪「店の中はどうなっていたんですか?」
佐久間「豪華なサロンみたいな感じだった」
優太「サロン? イメージが沸かないなあ」
佐久間「じゃあ、海外映画のお金持ちの家の大広間って言った方が分かりやすいかね」
美雪「暖炉とか蝋燭とかある感じですか?」
優太「バーカウンターもあったりして」
佐久間「そう。サロンのような場所には、約二十人くらいの男女がくつろいでいた」
美雪「二十人の男女……何だかいかがわしい感じ。優太、行ってみたかったでしょ」
優太「もちろん!」
佐久間「残念ながらご期待に添えるような場所ではなかったよ。大人たちがお酒を飲み交わす社交場という感じだったな」
美雪「それが行列の正体だったんですか?」
佐久間「いや、そうではない。一階の受付で、長々と書かれた利用申込書にろく読まずにサインをして、料金を払って入場した。受付のそばにサロン、二階がレストラン、三階にプールやトレーニングジム、四階が美容室とかエステ、最上階には露天風呂。呼べばボーイがすぐに飛んでくるような、おもてなしの充実した空間だった」
優太「で、お値段の方は……」
佐久間「二千円。税込みだ」
美雪「二万円の間違いでしょう」
佐久間「私は二千円しか払っていない」
優太「そんなに豪華な場所なら、僕たちも行きますよ。場所を教えてください」
佐久間「まあ待て。レストランでの食事後、ボーイに呼ばれたんだ。待合室に来いと」
美雪「ついに行列の正体が判明するんですね」
佐久間「待合室には、豪華なソファが置いてあり、年輩の男性、鈴木さんが座っていた」

 

   (回想)
重い扉が開閉する。
ボーイ「佐久間様、お呼びするまで、もうしばらくお待ちください」
佐久間「はい」
鈴木「あの……私はまだでしょうか?」
ボーイ「鈴木様、すぐにご用意いたします」
   ボーイが退出、重い扉が閉じる。
鈴木「いよいよですね」
佐久間「え? はい。まあ……」
佐久間M「私は内心焦った。行列が何たるかを知らずに並んでいる自分が、場違いのような気がしてきたんだ」
鈴木「ここの噂を聞いたときは信じられなくてね。ここに来ると決めてからの数日は落ち着かなかった。今日、やっとここに来たとき、安心感に包まれた。本当に良かった」
佐久間「あの、ここの行列って……」
   扉が開き、ボーイが入ってくる。
ボーイ「鈴木様、長らくお待たせいたしました。特別ルームにご案内いたします」
鈴木「じゃあ、あなたも楽しんで」
佐久間「え、ええ」
   鈴木、待合室を出ていき、扉が閉じる。
佐久間M「しばらく待ち、ついに私は行列の目的地に案内されたのだった」
   扉が開き、ボーイが入ってくる。
ボーイ「佐久間様、長らくお待たせいたしました。特別ルームに案内いたします」
佐久間「はい」
佐久間M「特別ルームはホテルの一室のようで、部屋の真ん中にベッドが一つだけあった。ボーイは私に飲み物の入ったグラスを渡し、部屋を出ていった。私は飲み物を飲み干し待つことにした」
   (回想終わり)

 

美雪「それからどうなったんですか?」
佐久間「私は意識を失った」
優太「それって、ボーイの持ってきた飲み物に睡眠薬が入ってたんですか?」
佐久間「恐らくな。気がついたら、ベッドの上に転がされた私の手足は縛られていた」
美雪「それってやっぱり、いかがわしい……」
佐久間「最初はそう思った。しかし、真相を知ったら、いかがわしいとは思わなかった」
優太「というと……」
佐久間「まあ、おぞましい、だな」
美雪・優太「おぞましい?」

 

   (回想)
看護師「佐久間さん、お目覚めですか」
佐久間「私の手足が動かないんですが……」
看護師「大丈夫ですよ。パニックになる人がいるので、手足を拘束しているんです」
佐久間「パニック……?」
看護師「受付で利用申込書にサインしましたよね? この通り同意を頂いております」
佐久間「申込? 何を……」
看護師「安楽死システムです」
佐久間「安楽死……? 誰が?」
看護師「あなた様ですよ。モグリの闇の医者、ドクターDが佐久間様を安楽死に導きます」
   佐久間、暴れる。
佐久間「違う! 私は安楽死したくない! 私は間違えて行列に並んだんだ!」
看護師「オホホ……(笑う)今更そんなことをおっしゃっても。このまま帰すわけにはいきません。口止めという考え方もございます。……さて、ドクターDが参りました。佐久間様へのご準備は整っております」
ドクターD「よろしい。では佐久間様は三日後に間違いなく安楽死する。楽しみたまえ」
佐久間「やめろ! 私は死にたくない!」
佐久間M「私はドクターDに注射され、そのまま意識を失った」

 

佐久間M「気付いた時私は待合室のソファに横になっており隣に鈴木さんが座っていた」
鈴木「気分はどうですか?」
佐久間「もう……最悪です」
鈴木「それは残念だ。私の気分は最高ですよ」
佐久間「えっ」
鈴木「私はギャンブル好きでね。闇金から金を借りて湯水のように使ってしまった。借金取りが一日中取り立てに来るようになって、一家心中しようと思ったんですが、ここの安楽死システムを聞きましてね。私は死んで家族に保険金を残そうと思いまして」
佐久間「家族に保険金……」
鈴木「家族に保険金を残したいのなら、闇の保険屋紹介しますよ。今日加入しても三日後に死んだときには必ず保険金が下ります」
佐久間「考えておきます……」
鈴木「さて、私は帰ります。ここで死ぬまで三日過ごしてもいいのですが、私はこれから三日間で色々と片づけることがあるので」
佐久間「私も……帰ります」
   重い扉が開き、ゆっくりと閉じる。

 

佐久間M「店から出た私は、鈴木さんと一緒に歩き始めた。外は朝になっていた。突然、鈴木さんが、懐からペンを取り出し、道ばたの壁に何かを書き始めた」
佐久間「鈴木さん、何をしてるんです?」
鈴木「私のような恵まれた人を増やすために、案内文を書いているんですよ」
佐久間M「鈴木さんの書いている案内文とは、『行列はこちら』。私がここに来るきっかけになった表示だ。行列の正体とはこれだったのだ。鈴木さんは、あちこちに表示を書いて、やがてどこかに行ってしまった。私もペンを手に、怒りの余り壁に書き殴った。『行列に並ぶな』と」
   回想終わり。

 

優太「佐久間さんが書いた表示が、例の……」
佐久間「『行列に並ぶな』」
美雪「でも佐久間さん、安楽死は三日後ですよね? でも今、佐久間さんは生きてますよ。夢でも見たんじゃないですか?」
佐久間「私も夢じゃないかって思ってね。しかし夢じゃないんだよ。今でも私の左腕には、注射の跡がはっきりと残っているんだ」
優太「本当だ。少し赤黒くなっている」
美雪「もっとよく見ていいですか?」
   美雪、佐久間の腕を取る。
美雪「きゃっ!」
優太「どうした、美雪」
美雪「佐久間さんの腕、氷のように冷たい」
優太「それって、ひょっとして……」
佐久間「まあ、ご想像通りだよ」
   マスターがやって来る。
マスター「すいません、ラストオーダーです」
佐久間「もう遅いから帰るよ」
美雪・優太「は、はい!」
   店を出る三人。
美雪「じゃあ、私たちは、これで」
優太「佐久間さんも、お気をつけて……って死んでるから気をつけることないのか」
美雪「(たしなめるように)優太!」
佐久間「(笑って)じゃ、さよなら」
美雪・優太「さようなら!」
   佐久間、去る。美雪、時計を見る。
美雪「今日東京に戻るのに、こんなに夜更かしして大丈夫かなぁ。あれ?!(驚く)」
優太「どうした!」
美雪「見てよ、今の時間、まだ十一時だよ。私たちが中州の屋台で食べていた時間」
優太「もしかして、時が止まっていたのかな」
美雪「とりあえず、帰ろうか」
優太「見ろ、ここに表示がある。『行列はこちら』って、矢印も書いてある」
美雪「ねえ、見なかったことにしようよ」
優太「行って見よう。佐久間さんの言っていた店が本当にあるのか、確かめみるんだ」
美雪「止めようよ、本当にやばいって」
優太「ここみたいだ。並んでみよう」
美雪「優太、お願いだから、止めようよ」
優太「大丈夫、様子見るだけだって」
美雪「優太!(怒って)」
   中からボーイが出て、二人に近づく。
ボーイ「お二人様ですね。どうぞ、こちらへ。夢の世界へご案内いたしましょう……」
   重い扉が開き、やがて閉まる。

 

終わり

 

◆執筆後記
 ラジオドラマ用シナリオとして応募、見事撃沈。そんな日もある(遠い目)。小説「並んではいけない行列」をシナリオ化。

« ふたりのポンタ | トップページ | シナリオ「ただいまの日」 »

シナリオ・脚本」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« ふたりのポンタ | トップページ | シナリオ「ただいまの日」 »

お品書き

大好評★架空請求の体験談

おすすめエッセイ

おすすめ小説

無料ブログはココログ