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シナリオ「ケサランパサランの事件簿」

◆ あらすじ
 
 大学生・小谷順也は、両親に先立たれ、祖母との二人暮らしをしている。半年前から、下半身の無い女に追いかけられる悪夢を度々見ることから、大学の都市伝説サークル『ケサランパサラン』に相談する。都市伝説の好きな喫茶店オーナーの支援により、数々の都市伝説を調査、雑誌記事にも掲載されるなどの積極的活動を行っているサークルのメンバー、山際・香川・大木と共に、小谷は調査を開始する。下半身の無い女は、15年前の女性轢死事故に起因すると判明。小谷は同級生の柳原倫香と出会い、ほのかな想いを寄せる。
 山際・香川は現地の新聞記者の岩見と合流、大木・小谷は図書館で事故情報を調査、女性轢死事故と同時期に起こった男女の焼死体発見が、距離的に近いことに気付く。
調査の一行は轢死女性の墓に行く。女性の墓の隣に、小谷の両親の墓があることを知る。新聞記者・岩見の情報から、小谷も当時、事故に遭遇していたという疑問が持ち上がる。動揺する小谷だったが、事故関連の写真を見ているうちに、事故当時の状況をフラッシュバックで思い出す。
 小谷の両親は、幼い小谷、祖父と4人の旅行先での運転中、散歩中の女性を跳ね飛ばした。女性は電車のワイヤーに引っかかり身体の上下が切断されてしまう。小谷父は目撃者がいないことから逃走するが、血まみれの女性が追ってくる幻想が見えたことで、動揺し、林道の中で車を横転させてしまう。小谷祖父は、小谷父を助け出そうとするが、諦め、幼い小谷を連れてその場を後にする。車は炎上し、小谷両親は焼死する。
 女性轢死事故の現場では、轢死女性の夫、柳原が、娘の倫香とともに現れる。小谷が想いを寄せる同級生である倫香は、女性轢死事故の目撃者であった。柳原は倫香の目撃情報を元に、妻をはねた車を捜索、小谷両親の事故にたどり着いた。
 事故の全容が判明し、小谷の悪夢は終わる。事件を報じた週刊誌を手にした倫香の姿は雑踏の中に消えていくのだった。

 

◆登場人物
小谷順也(19)   学生。悪夢を見ることからサークルに調査依頼。
大木(19)   学生。都市伝説サークル『ケサランパサラン』メンバー。
香川(19)   学生。都市伝説サークル『ケサランパサラン』メンバー。
山際(22)   学生。都市伝説サークル『ケサランパサラン』メンバー。
岩見(40)   東北新報記者
マスター(55)   喫茶店『ケサランパサラン』の店主。調査活動の支援者。
小谷父(31)   小谷明。小谷の父。
小谷母(30)   小谷百合恵。小谷の母。
小谷祖父   小谷の祖父。
幼い小谷(5)   事件当時の小谷。
柳原(55)   柳原倫香父 轢死女性の夫。
柳原倫香(19)   学生。小谷が想いを寄せる。轢死女性の娘。
小谷祖母(70)   小谷の祖母。
松丘(19)   小谷のクラスメイト。
小松響子(30)   轢死女性。
幼い倫香(5)   事件当時の柳原倫香、轢死女性の子。
マスターの奥さん
学生
住職
リポーター
警官

◆本編 「ケサランパサランの事件簿」
 
○線路脇・コスモス畑
   線路そばのコスモス畑の道を歩く母子。
 母・小松響子(30)は赤い日傘をさ している。
   子・柳原倫香(5)立ち止まる。
倫香「お母さん、お花取っていい?」
響子「いいわよ」
   コスモス摘みに夢中の倫香。
   踏切の警告音。
   電車の接近音。
   驚く響子の顔。
   衝撃音。
   青空に舞う赤い傘。
   血が飛び散り赤くにじむコスモス。

 

○小谷順也の家・部屋(深夜)
   小谷、ベッドでうなされている。
   *   *   *
   薄暗い森。
   小谷順也(19)、転びながらも走り続ける。
   ガサガサと何かが近寄る音。
   小谷、立ち止まり足下を見下ろす。
   足元に血まみれの下半身の無い女。
   小谷、恐怖で固まる。
女「……テケ、テケ。……テケ、テケ」
   小谷、足を振り上げ女を蹴飛ばす。
   転がり草むらの中に消える女。
   小谷、再び走り出す。
   耳に女の声が何度も鳴り響く。
   *   *   *
   ベッドで目を覚ます小谷。

 

○同・台所(深夜)
   小谷、シンクで顔を洗う。
   小谷祖母(70)がやって来る。
小谷「ばあちゃん、夜だよ、眠ってよ」
小谷祖母「じいちゃんが帰ってきたと思ってね。おや、音がする(振り向く)」
   小谷祖母、居間に行く。
   小谷、ため息をつく。

 

○同・居間(深夜)
   小谷、居間の襖をのぞき込む。
   小谷祖母が仏壇で拝んでいる。
   小谷、襖を一気に開ける。
   小谷祖母、振り向く。驚いた表情。
小谷「ばあちゃん、早く眠って。まだ夜だよ」
   仏壇には小谷の両親(小谷明・百合恵)、小谷祖父の写真。
   壁掛け時計は2時30分。
   小谷、祖母が寝室に入るのを確認し、各所の電気を消す。

 

○ふじのやま大学・教室
   学生の賑やかな話し声が響く。
   小谷、教室を見回し、友人の松丘(19)を見つけ、近くの席に座る。
松丘「小谷。お前、顔色悪いぞ」
   小谷の顔は土気色である。
小谷「最近全然寝てないんだ」
松丘「夜遊びか?」
小谷「違うよ、悪い夢ばかり見るんだ」
松丘「確か前もそんな話してたよな? あれから、ずっとか?」
小谷「まあ」
松丘「お前の悪夢って、確か……何かに追われてるっていうやつだっけ」
小谷「何かじゃなくて、下半身の無い女だよ。お化け」
松丘「お前が振った女じゃないのか?」
小谷「おい、冗談じゃないよ。眠れなくて困ってんの。お化けとか、ほんとマジ勘弁」
松丘「お化けか……(思い出したように)あ! 確か、お化け専門のサークル、うちの大学にあったんじゃないか?」
小谷「お化け専門サークル?」
松丘「ちょっと待ってろよ」
   松丘、近くの学生に次々と声をかける。
   声をかけられた学生は松丘の話にうなずき、紙に走り書きし、松丘に渡す。
   小谷、所在なく教室の周りを見回す。
   柳原倫香(19)が女友達と談笑している(輝いて見える)。
   小谷、倫香をぼんやりと眺める。
   松丘、小谷の肩を乱暴に叩く。
   小谷、我に返り、松岡の顔を見る。
   松丘、紙を小谷に渡す。
松丘「お化けサークル。夢に出てくるっていうお化けの話、相談してきたら?」
   小谷、紙を広げる。
   紙には「都市伝説サークル『ケサランパサラン』」の文字と、簡単な地図。

 

○喫茶店ケサランパサラン・店前・外観
   古ぼけた薄汚い店。

 

○同・店内
   観葉植物の植木が数点置かれている。
   壁にはUFO、宇宙人等の写真、新聞記事等が貼られ、超常現象や都市伝説関連の書籍が棚に収まっている。
   棚の一角には、『ケサランパサラン活動記録』のファイルがある。
   奥の席では、マスターの奥さんが伝票を手に、電卓を叩いている。
   小谷、不安げに周囲を見回す。
小谷「あの、すいません!」
   カウンターの奥から店主マスター(55)が出てくる。
マスター「お一人ですか?」
小谷「はい」
マスター「お好きな席にお座り下さい」
   マスター、カウンター奥に消える。
   小谷、ぼんやりと壁の新聞を眺める。
   チャイムが鳴り、学生・大木(19)、香川(19)、山際(22)が入店。
大木「マスター! いつものお願いします!」
   3人、ソファ席を陣取る。
   大木、リュックサックからノートパソコンを取り出し叩き始める。
   香川、鞄からノートとペンを取り出し、考え込みながらメモを取り始める。
   山際、上着の内ポケットから煙草を取り出し吸いかけるが、香川から煙草を取り上げられ、脇に挟んでいたスポーツ紙を取り出し眺める。
   マスター、クリームソーダ、アイスコーヒー、ホットコーヒーを盆に乗せて席に持ってくる。
   マスター、大木にクリームソーダを、香川にアイスコーヒーを、山際にホットコーヒーを配膳する。
マスター「面白そうな話はないの? 山際君」
   マスター、山際の隣に腰を掛ける。
山際「ないない、何にもない夏休み! 今週のレースも大外れ!」
   山際、スポーツ紙を放り投げる。
大木「香川さん、『絶対当たる占い師』はどうですか?」
香川「大木、それは先月終わった話だろ」
大木「『事故物件』は?」
香川「いいぜ、調べても。ただし、本物のお化けが出るなら」
   マスター、楽しそうに見ている。
   大木、嬉しそうにパソコンで調べ始める。
   小谷、恐縮した様子で声を掛ける。
小谷「あの……」
   3人、大げさに驚く。
大木「出た! お化け!」
小谷「お化けじゃないです」
山際「……何者だ」
小谷「お客ですよ」
   3人、マスターの顔を見る。
   マスター、思い出したように慌てて立ち上がる。
マスター「ご注文ですね。ホットコーヒーでよろしいですか?」
小谷「はい。……あの、お化けの話、ちょっといいですか」
   マスター、席を立つ。
   3人の目が輝く。
大木「お化け? どこに出るんですか?」
香川「いいね! お化け! さあ、来い!」
小谷「あの……夢の中で」
   白けた空気。
   4人、呆れた表情になる。
   山際、背伸びして立ち上がる。  
山際「さて、都市伝説ネタ、探しに行くっかな。香川、お前はどうする?」
   香川、ノートとペンを鞄にしまう。
香川「僕は学校に戻って新聞社への就活準備をしてきます」
   大木、パソコンを閉じる。
大木「これから地下アイドルみんみんのサイン会に行って来ます」
小谷「(慌てて)ちょっと待ってください! 俺の話を聞いて下さい! 半年前からずっと、夢の中に、下半身の無い女性のお化けが出るんです!」
   3人、顔を見合わせソファに座り直す。
   マスター、小谷にコーヒーを配膳。
山際「半年前から? ずっと?」
香川「下半身の無いお化けって……」
   山際、ニヤリと笑い、大木を見る。
山際「大木、あるよな」
大木「はい。いくつか、絞り込めますよね」
マスター「そのお化けは何か言ってました?」
小谷「ええ。テケテケ……って」
   4人、顔を見合わせ嬉しそうにハイタッチをする。
   大木、うやうやしくお辞儀。
大木「都市伝説サークル『ケサランパサラン』へようこそ!」

 

タイトル「ケサランパサランの事件簿」

 

○小谷順也の家・部屋(深夜)
   小谷、ベッドでうなされている。
   *   *   *
   薄暗い森。
全力で走る小谷。
   ガサゴソと草を踏む音がする。
   小谷、しゃがんで身を小さくする。
   くぐもった女の声が聞こえる。
女「……・テケ、テケ。……テケ、テケ」
*   *   *
   小谷、ベッドでうなされ目を覚ます。
小谷「夢か……」
   小谷、起き上がり頭をかきむしる。

 

○同・台所(夜)
   小谷、シンクで顔を洗う。
   小谷、壁のカレンダーを見る。
   『デイサービスお泊まり』の文字。
小谷「ばあちゃん、今日泊まりだったな」
   カレンダーには、『順也バイト』、『奨学金入金日』の文字。

 

○同・居間(仏間)(夜)
   小谷、仏壇の前に座る。
   小谷、両親・祖父の写真を眺める。

 

○森(回想)
   大雨、夜の森。
   炎上する車のそばで幼い小谷(5歳)が小谷祖父の腕の中で泣いている。

 

○同・居間
   小谷、目を開ける。
   小谷、襖を開けて出て行く。
   襖がピシャリと閉じられる。
   仏壇の写真がカタリと動く。

 

○喫茶店ケセランパサラン・店内
   席に座る小谷、大木、香川、山際。
   そばの椅子に座るマスター。
マスター「では現時点での調査結果をどうぞ」
大木「テケテケというのは、東北地方で起きた列車事故が原因という説が有力です。女性が列車事故に遭い、身体が上下に引き裂かれたことから、付近を捜索しましたが、見つかったのは上半身のみ、下半身は見つかりませんでした。このことから、以降、上半身が下半身を探しているという都市伝説が広まりました」
   *  *  *
   イメージ。
   夕暮れの中の列車、踏切警報機。
   列車の前に立つ女性の姿。
   衝撃音。
   上半身(影)がうごめき闇に消える。
   *  *  *
山際「列車事故の場所と時期が特定できたら、現地調査開始だ」
大木「分かりました」
香川「オッケー」
マスター「では解散!」
   全員、立ち上がる。

 

○高台公園(夕方)
   小谷・大木・香川・山際、高台公園で街を見下ろす。
   遠くに夕焼け。
小谷「マスターってどういう人なんですか?」
山際「元々は高校の先生。親の遺産があって、お金には困ってないとかいう噂」
香川「UFO・超常現象・都市伝説が好きで、喫茶店の名前を『ケサランパサラン』にしたのもそういう理由」
小谷「ケ……? 『ケサランパサラン』?」
大木「これくらい自分で調べて下さいよ」
小谷「都市伝説サークルっていうのは?」
山際「俺たち、ふじのやま大学のサークル。マスターが、都市伝説の調査費用を全面的にバックアップしてくれている。活動場所はマスターのお店」
小谷「へえ……」
大木「領収書はちゃんと出して下さいよ。マスターの奥さん、凄く厳しいんです」
小谷「で、調べた後はどうするんですか? ブログにアップするとか……」
山際「マスターの友人の雑誌記者が、調査結果を記事にするのさ。店の壁にあった記事は、過去のサークル調査結果」
   *   *   *
   (回想)
   店の壁に貼られた記事の数々。
   *   *   *
大木「(夢見るように)僕たちの調査が、最後は打ち上げ花火のように雑誌の記事になるんです!」
香川「要するに、病みつきってわけよ」
山際「小谷君も、大学の単位を落とさない程度に、一生懸命に調べてよ」
小谷「はあ……。で、ここは何なんですか?」
大木「ふじのやま高台公園。UFO目撃証言の多い場所です」
   大木、双眼鏡で遠くを眺める。
   香川、鞄からカメラを取り出し構える。
   山際、懐から煙草を取り出し吸う。
   小谷、気まずそうに、
小谷「俺、用事あるんで、失礼します」
山際「じゃあな」
   小谷、そばを離れる。
   空を眺める3人のシルエット。

 

○小さな駅・改札前(夜)
   小さな駅の改札を出る小谷。
   改札前のベンチに座り、酔った風の柳原倫香に気付き、立ち止まる小谷。
   *   *   *
   (回想)
   女友達に囲まれる楽しそうな倫香。
   遠くで見る小谷。
   *   *   *
   倫香に歩み寄り、話しかける小谷。
小谷「柳原さんですか?」
   倫香、眠たげな目を開く。
倫香「……誰?」
小谷「法学部2年の小谷。クラスで一緒の」
倫香「ごめん、分かんない。ね、家帰りたいから、手伝って」
   倫香、ふらふらと立ち上がる。
   小谷、倫香の身体を支える。
小谷「柳原さん……」
倫香「倫香って呼んで」
小谷「倫香さん、お家近くなんですか」
倫香「そう、たぶんそう」
   小谷、倫香の身体を支えながら歩き出す。

 

○柳原倫香のアパート・ドア前(夜)
   小谷、部屋番号を見る。
   小谷、倫香を揺すり、
小谷「着きましたよ」
   倫香、震える手で鞄から鍵を取り出そうとして、落とす。
   小谷、倫香を抱えながら開錠する。
小谷「部屋に入ります……」
   小谷、緊張しながら、入室。

 

○同・室内(夜)
   女の子らしい部屋。
   小谷、倫香をベッドに寝かせ、毛布を上に掛ける。
   倫香、目を閉じたまま。
倫香「ありがとう……帰っていいよ」
   小谷、落ち着かず周りを見回す。
   机の上に置かれた木彫りの置き時計に目を留め、手に取る。
   熊の造形がリアルな奇妙な時計。
   裏には「○○村・合併記念」の文字。
倫香「……小谷君、ありがとう。さっさと帰って」
   小谷、倫香の声にどぎまぎする。
小谷「じゃあ、俺はこれで」
   小谷、倫香の部屋を出る。

 

○同・アパート前(夜)
   小谷、足取り軽く帰る。

 

○同・アパート室内(夜)
   倫香、起きあがる。
   眠たげではない。口元に笑み。

 

○新幹線のプラットホーム
   新幹線から降り歩き出す小谷・大木・香川・山際の4人。
   大きな旅行鞄を持っている。

 

○レンタカー・車内
   運転山際、助手席小谷、後部座席に大木、香川。
   大木、香川、じゃんけんを始める。
大木「今日の晩ご飯を賭けまして……最初はグー!」
   山際、ルームミラーで二人を睨む。
山際「おい、そこの。うるさいと外に出すぞ」
大木「すぐ終わるんで、待って下さい!」
   大木、勝負に勝ち、大げさに喜ぶ。
   山際、急に車を路肩に止める。
   山際、後部座席を振り向いて怒鳴る。
山際「俺は、車で騒がれるのが一番嫌いなんだ。降りるか、静かにするか、どっちかにしろ」
   大木・香川、下を向く。
大木「静かにします」
   山際、車をスタートさせる。
   小谷、気まずくなり、外を見る。
   静かになる車内。

 

○小さなホテル・外観
   地方都市にある小さなホテル。

 

○小さなホテル・ロビー
   4人、ラウンジで作戦会議。
山際「俺は香川と、事故当時の取材記者と会う。大木と小谷は図書館で事故情報を調べてくれ」
   4人、立ち上がる。

 

○東北新報・社屋内
   人気が無く閑散としたオフィス。
   新聞記者の岩見(40)、山際と香川に名刺を差し出し、ソファに促す。
岩見「私は東北新報の岩見」
山際「ふじのやま大学2年、山際です」
香川「香川です」
岩見「で、何が知りたいの」
山際「15年前の列車事故について」
岩見「ちょっと待ってよ」
   岩見、ノート等資料を持ってくる。
   ファイル名「女性列車轢死事件」。
岩見「古い話だよ。何でこんな事件に興味持ってんの」
山際「大学のレポートで、地方の事件事故の背景について調べているんです」
岩見「最近の大学生は大変だね。じゃ頑張って」
   岩見、欠伸をしながら出ていく。
   山際、ファイルを開く。
   香川、カメラで周囲を撮影する。
   新聞記事が多数貼られている。
  『』凄惨な列車事故」
  『飛び込み自殺?』「」
  『上下分断された死体』
  『消えた下半身はどこに?』
   事故写真数点。
   線路、コスモス畑、赤い傘、血痕。
   幼い子を抱いた女性の写真。「小松響子・30歳」とある。
   山際、デスクで競馬新聞を読む岩見に話しかける。
山際「当時をご存じの方はいますか?」
岩見「いるにはいるが、この辺り地名が変わったからな、探すのは難しいよ」
山際「地名が変わった?」
   岩見、木彫りの置き時計を示す。
   熊の造形がリアルな奇妙な時計。
   裏に「○○村・合併記念」の文字。
岩見「市町村合併で地名が変わったんだ。探すのは難しいぞ」
   香川、時計を写真に収める。
山際「お墓は、ご存じですか?」
   岩見、考え込む。
岩見「市の共同墓地だったかな」
山際「調べてみます」
   山際、香川、頭を下げる。
山際、香川「ありがとうございました」

 

○図書館・新聞閲覧場所
   小さな図書館。
   当時の新聞を探す大木、小谷。
   小谷、大木に話しかける。
小谷「山際さんってどうしてあんなに恐いんですか?」
   大木、新聞から目を離さず答える。
大木「いつもですよ、あの人。いい人なんですけどね。苦労人で、俺たちより3歳も年上。色々あるみたいです」
小谷「ふーん」
   大木、記事を見つける。
大木「ちょっと、この事件、気になります」
   大木、列車事故記事と、男女の焼死体発見の記事を並べる。
小谷「男女の焼死体発見の記事は、今回の列車事故と何か関係あるんですか?」
   大木、地図を広げて示す。
   二つの事件は隣接し、県境にある。
大木「市町村合併して場所が分かりにくいですけど、距離的には近いと思いますよ」

 

○同・玄関
大木「列車の事故と、焼死体の件。場所が近いということは、間違いなく関連性がありますね」
小谷「関連性って……」
大木「都市伝説ハンターの勘です」
小谷「前から言おうと思っていたんですけど、『ケサランパサラン』っていう変なサークル名、どうにかならないんですか?」
大木「マスターの趣味の喫茶店にちなんでつけてるんです。マスターが僕たちの活動支援をしている以上、僕たちは『ケサランパサラン』なんです」
   大木、携帯を確認する。
大木「亡くなった女性のお墓が分かったようなので、合流しますか」
小谷「オッケー」

 

○共同墓地・墓の前
  小谷、大木、香川、山際、墓前で手を合わせる。墓には「小松響子 享年30歳、平成14年8月30日没」の文字。
  香川、カメラで周辺を撮影をする。
  小谷、何気なく隣の墓を見る。
  墓には「小谷明 享年31歳、小谷百合恵 30歳、平成14年8月30日没」。
  小谷、驚いて墓に駆け寄る。
山際「どうした」
小谷「俺の、両親の、墓だ」
   大木、香川、山際、驚く。
小谷「小さい頃に両親は事故で死んだと聞かされた。俺は墓参りには行ったことが無い。昔、ばあちゃんにお墓の場所を聞いたら、遠いから行けないって……」
   小谷、力なくしゃがみ込む。
   大木、資料の新聞を広げる。
大木「ということは、『雑木林で男女の焼死体発見』、これは小谷君の両親のことじゃないですか?」

 

○同・管理事務所前
   住職、悲しそうな表情で話す。
住職「悲惨でしたよ。女性の上半身のご遺体と、近くの林には燃えた車の中に男女の焼けたご遺体がありました。上半身の女性のほうはご主人が引き取り、男女のほうはご家族が来られないということで、町の方が有志でお墓に入れたんですよ」
   全員、複雑そうな顔をする。
   小谷、悔しそうに空を見上げる。

 

○大衆食堂・店内(夕飯)
   4人は席で食べながら話す。
小谷「俺、両親が死んだ経緯を全然知らなかったんだ。亡くなったじいちゃんは、何も教えてくれなかったし、ばあちゃんも最近は記憶が曖昧で……」
山際「(遺品とかあるだろう、思い出の品とか。手がかりは無かったのか? 今まで疑問に思わなかったのかよ?」
香川「ようやく小谷君の悪夢に出てくるお化けとの関係性が見えてきそうだね」
大木「新聞社では何か収穫はあったんですか?」
   山際、資料を大木に渡す。
   香川、カメラを小谷に渡す。
   大木、資料を眺める。
   小谷、写真のプレビュー画面の木彫りの置き時計で手が止まる。
小谷「この置き時計って……」
香川「市町村合併の記念で配られたとか」
小谷「これ、どこかで見たような気が……」
大木「で、次はどこを調べるんです?」
山際「待て。まず、話を整理しよう。小谷は下半身の無い女のお化けに追いかけられる夢を半年前から見ている。お化け女は『テケテケ』と言っていることから、都市伝説の『テケテケ』ではないかと俺たちは考え、調査を開始した」
香川「そこで都市伝説発祥の事故現場を特定し、東北地方のこの都市にやってきた。『テケテケ』のルーツと思われる女性の列車事故の話は、新聞社で確認した通り。女性の死体発見場所と時と場所を同じくして、小谷の両親が焼死体で発見されている」
大木「小谷君の両親は何をしにこの町に来たんですか?」
   皆で小谷を見る。
   小谷、首を振る。
   山際、携帯で電話を掛ける。
山際「度々すいません、さきほどお邪魔したふじのやま大学の山際ですけど、東北新報の岩見さんは……あ、どうも先ほどは……、あの、またお願いしたいんですけど、列車事故のあった同じ日に、男女の焼死体が発見されているって聞いたんですが、ご存じありませんか? ……はい、急ぎです。すいません」
   しばらくして電話の着信。
   山際が電話に出る。
山際「山際です。はい、今大丈夫です。……夜、暴走車両が雑木林に突っ込んできた。大雨、ブレーキ痕は無い。レンタカー? なるほど。運転席に男性、助手席に女性。車が燃えたんですか? 所持品から身元判明。身元不明の指紋が二つで、一つは成人、一つは子ども(小谷を見る)、なるほどね。事故写真とかは? 分かりました。後で取りに行きます」
   山際、電話を切る。
   山際、小谷を睨みつける。
山際「(怒ったように)お前、事故現場にいたんだろ?」
   小谷、顔色を変えて立ち上がる。
小谷「俺は、知らない!」
   小谷、店を出て行く。
   香川、大木、じゃんけんをする。
   勝った香川、ガッツポーズ。
香川「大木、ごちになります」
   考え込む山際。

 

○ホテル・シングル部屋(夜)
   ベッドに転がる小谷。目を閉じる。
   *   *   *
薄暗い森。
   道の無い草むらを走る小谷。
   雨が降り、土砂降りになる。
   森に衝撃音が響く。
   森に細長い光が差す。
   小谷は光の方向に走る。
   車のヘッドライトのそばに人影。
   車のそばに幼い小谷(5歳)を抱く小谷祖父。
   車が衝撃音で跳ね上がる。
   小谷祖父、幼い小谷とともに走り去る。
   車のボンネットから火が上がる。
小谷「父さん、母さん!」
   小谷、燃える車に駆け寄る。
   フロントガラスが割れ、車の運転席に小谷父、助手席に小谷母。二人とも頭から血を流し、ぐったりとしている。
   小谷、車に近寄る。
   次の瞬間、車が燃える。
*   *   *
   小谷、うなされて目を覚ます。
   起き上がり、洗面所で洗顔。
   電話の着信音が鳴る。
   着信画面は、「柳原倫香」。
   小谷、驚いて電話に出る。
小谷「もしもし」
(以降、カットバック)

 

○ホテル・シングル部屋(夜)
   電話で話す柳原倫香。
倫香「小谷君? 私……倫香。この前はありがとう。酔ってて、あまり覚えてないけど、小谷君と話をしたのは覚えてる。電話番号は、小谷君の友達から聞いたの」
小谷「そう……じゃあ、今度お酒飲むときは、酔いすぎないように、気をつけて」
倫香「あの……」
小谷「な、何?」
倫香「お礼に……今度一緒にお酒でもどうかなって。二人きりで」
   ガッツポーズする小谷。
小谷「い、いいね」
倫香の声「私の家でもいいよ」
小谷「家?」
   小谷の声が嬉しそうにワントーン上がると同時に、小谷、あっと息を飲む。
   小谷の脳裏にイメージが浮かぶ。
   *   *   *
   イメージ。
   倫香の家の木彫りの置き時計と、香川のカメラに映っていた新聞社の置き時計が重なり、一致する。
   *   *   *
倫香の声「小谷君? 大丈夫?」
   小谷、我に返る。
小谷「う、うん、何でもない」
倫香「(笑う)じゃあ、おやすみなさい」
小谷「……おやすみ」
   小谷、電話を切り、大きなため息。
   倫香、不敵な笑み。

 

○ホテル・ロビー(朝)
   ロビーの椅子に座る4人(小谷、大木、香川、山際)。
山際「今日は東北新報の岩見さんの案内で、事故現場に行く。予算の都合上、我々のタイムリミットは今日までだ。明日には戻らないといけない」
香川「真相解明は今日まで、ってことだな」
   4人はうなずく。

 

○ホテル・玄関前
   4人、ホテルから出てくる。
   ホテルの前に横付けされた車(5人乗り)。
   運転席から、岩見が降りてくる。
   岩見、手を挙げて4人に合図する。

 

○5人乗り車・外観
   緑豊かな田園風景の中、車が進む。
遠くには雄大な景色。

 

○5人乗り車・車内
   運転席に山際、助手席に東北新報・岩見、後部座席に右から大木、香川、小谷の順で並んでいる。
   岩見、助手席の足下に置いてあった『04年8月 女性轢死事件 捜査資料』と書かれた紙袋を漁り、中から『事故車両』と書かれた小さい紙袋を取り出す。
岩見、後部座席側に振り向き、後部座席の香川に渡す。
   香川、小谷に紙袋を渡す。
   小谷、紙袋の表書きを確認し、中の写真を取り出し、手に取る。
   写真は、森の中で燃えた車両を、規制線の外側から、様々な方向から撮影したものである。
遠景、近景。運転席、助手席、後部座席、周囲の生い茂る木々。
   小谷、写真をじっくりと眺めていたが、突然、写真を取り落とし、苦しそうな顔で頭を抱える。
   *   *   *
(フラッシュバック)
   衝撃、揺れ、女性の悲鳴、目の前を染める血しぶき。
ガタンゴトンの列車の音、
   青空。踏切。カーンカーンという音。(フラッシュバック終わり)
   *   *   *
香川「小谷! しっかりしろ、おい!」
   車が路肩に停車する。
   香川、シートから身体を浮かし小谷の肩を揺する。
   小谷、我に返る。頭を振り、目をしばたかせ、大きな深呼吸。
小谷「大丈夫、大丈夫」
   香川、安心したように、シートに身体を沈める。
   車が出発する。
   小谷、車窓を眺める。
   田園風景、遠くの山並み。
   突然、後部座席の大木と香川がじゃんけんを始める。
大木「それじゃ、今日の昼ご飯は1回勝負で」
香川「俺はステーキ丼にするからな」
大木「それじゃ……最初はグー!」
   山際、バックミラーを睨む。
山際「おい、後ろ、これ以上うるさいとその辺に落としていくぞ」
大木「ちょっとまって、あと1回待って」
   大木、じゃんけんに勝ち、大げさに喜びガッツポーズ。
山際「おい、いい加減にしろよ!」
   山際、険しい顔になり、怒鳴る。
   山際、路肩に停め、後部座席に振り向き、再度怒鳴る。
山際「お前ら、車から下ろすぞ!」
   小谷、振り向いた山際の顔を見る。
   *   *   *
(フラッシュバック)
   山際の顔が二重写しにぼやけて見える。
(フラッシュバック終わり)
   *   *   *
○車の中(回想)
   運転席に、小谷父、助手席に小谷母。
   後部座席に小谷祖父、幼い頃の小谷(5歳)。
   幼い小谷、シートベルトと嫌がる。
   父母、楽しげに会話している。
   祖父、微笑んで車窓を見ている。
   田園風景、遠くの山並み。
   田園の途中、コスモス畑となる。
   遠くで電車の音。
   幼い小谷、シートベルトを外そうともがく。
幼い小谷「ヤダヤダ! 取って取って!」
   小谷父、ルームミラーの幼い小谷をにらむ。
小谷父「順也、いい加減にしなさい!」
   幼い小谷、暴れる。
   踏切の遮断機の警告音、電車の音。
   小谷父、後部座席に振り向いて怒鳴る。
小谷父「順也!」
   小谷父が振り向く瞬間、フロントガラスの向こうに女性と赤い傘。
   踏切警告音、電車の音、警笛。
   小谷母、女性に気づき指さし叫ぶ。
小谷母「あなた、人!」
   小谷父、あっという表情。
   衝撃音。
   青空に舞う赤い傘。
   風で揺れるコスモス畑。
   列車の通過音と警笛、遮断機の警告音。
   フロントガラスが血に染まる。
   列車の通過音が遠ざかる。
   小谷父、小谷母、慌てて車外に出る。
   小谷祖父、幼い小谷の身体からシートベルトを外す。
   幼い小谷、恐る恐る伸び上がって車の周りの様子を伺おうとする。
   小谷祖父、幼い小谷を抱き寄せ、膝にのせ、胸の中に顔を埋めるようにし、幼い小谷に見せないようにする。
   幼い小谷、小谷祖父の胸の中でじっとする。
   小谷祖父、車外を見る。

 

○コスモス畑・車のそば(回想)
   コスモス畑、あぜ道。
   あぜ道に赤い傘が転がっている。
   車のそばで、小谷父母が口論をしている。
小谷父「女性が飛び出してきて」
小谷母「あの人は女の子を連れて歩いていただけよ! それをあなたが轢いたんじゃない!」
小谷父「それは、順也が騒ぐから」
小谷母「順也のせいにしないで!」
小谷父「お前のしつけが悪かったからだろう! 俺のせいにばかりにするな!」
小谷母「あなたがこんな人だとは思わなかった……(泣き出す)」
   小谷父、小谷母の身体を抱きしめる。
   小谷母、嫌がり身をよじり、小谷の胸や肩をこぶしで叩く。
   肩を落とし、うなだれる小谷父。

 

○車の中(回想)
   車に乗り込む小谷父母。
   心配そうな小谷祖父。
   祖父の身体にしがみつきながら、じっとする幼い小谷。
小谷祖父「どうなった。あの女性は」
小谷父「身体が上半身と下半身の二つに切断されました」
   小谷父、淡々と説明する。
   小谷母、泣き出し、身体を九の字に曲げて、両手で頭を覆う。
小谷祖父「何だって?」
小谷父「はね飛ばした衝撃で、電車のワイヤーにぶつかって、切断されました」
   息を飲む小谷祖父。
小谷父「女性の上半身は遮断機のそばにありましたが、下半身はちょうど通過した電車に巻き込まれたみたいで、ありませんでした」
   小谷父、車のエンジンをかける。
   小谷祖父、驚く。
小谷祖父「ちょっと待て、どこに行くんだ」
小谷父「目撃者は誰もいません。大丈夫です、私に任せて下さい」
   小谷父、車をスタートさせる。
   小谷父、表情は鬼の形相。
   どんどんスピードを上げる車。
   小谷父の異様な雰囲気に気づき、小谷祖父は、急いで幼い小谷をシートに戻し、しっかりとシートベルトをつける。
   幼い小谷、祖父の厳しい表情を察し、素直に従う。
小谷祖父「順也、目を閉じなさい」
   幼い小谷、目を閉じる。
   小谷祖父、自分のシートベルトを確認し、うなずき、シートに身体を埋めて、目を閉じる。
   *   *   *
   小谷父、何気なくバックミラーを見る。
   目を閉じ、眠ったようになっている小谷祖父、幼い小谷が見える。
   突然、ドンっと音がする。
   小谷父の目が大きく広がる。
   リアガラスにベタっと顔と両手をくっつける女性の姿。
   女性の顔は所々血に汚れている。
   女性の口が、何かを言おうとしたのか、パクパクと開く。
   女性、血に染まった手でリアガラスを何度も叩く。
   ガラスが血に汚れる。
   小谷父は恐怖で息を飲み、身体を震わせてミラーから目を外し、身体を縮こませるようにして運転に専念する。
   小谷父、アクセルを強く踏む。

 

○林道
   車は早いスピードのまま、林道に入る。
   小谷父、ミラー越しにリアガラスを見るが、女性の姿は無く、ガラスも綺麗なまま。
   小谷父、ほっとため息をつき、口元に笑みを浮かべる。
   車はスピードを上げたまま、山道をどんどん登っていく。
   空は夕暮れにさしかかり、暗い。
   道の入り口に、「この先関係者以外立入り禁止」の看板。
   看板を通過し、さらに車は進む。
   小谷父、バックミラーを見る。
   眠ったように目を閉じた小谷祖父、幼い小谷。
   助手席の小谷母も頭をシートに倒し、眠っている。
   小谷父、ほっとため息をついた瞬間、車の天井にドンという衝撃、ウィンドウを見上げると、女性の逆さまの顔がある。
小谷父「わー!(絶叫)」
   小谷父、急いでブレーキを踏む。
   衝撃。
   車は木にぶつかり、バウンド、横転、一回転し、元の状態に着地する。

 

○車の中(回想)
   小谷祖父、身体を大きく揺らす衝撃で目を開ける。
   運転席、助手席では小谷父母が血まみれでぐったりしている。
   フロントガラスが粉々に砕けている。
   小谷祖父、震える手で自分のシートベルトを外し、横でぐったりしている幼い小谷の身体を揺すり、その身体からもシートベルトを外す。
   小谷祖父、幼い小谷の身体を抱き上げ、車外に出る。
   バンパーから黒煙が出ている。
   小谷祖父、幼い小谷を抱いたまま、運転席のドアを開け、血まみれの小谷父を揺すり起こそうとする。
   小谷父、絞り出すように言う。
小谷父「父さん、私たちのことは置いていって下さい。順也を頼みます」
   小谷父、目を閉じて言う。
小谷祖父「お前たちを置いていけない!」
   小谷父、血まみれの右手を上げて小谷祖父の身体を押し出す。
   雨が降り出す。大粒の雨が車を叩く。
父「私たちのことは、……置いていって下さい。……おいていけ!(力を込めて祖父を突き飛ばす) おいていけ!(声が少しずつ小さくなり)おい……てけ、おい……てけ、……てけ、てけ」
   小谷父の弱々しい声の『てけてけ』のみが残響し、リフレインされる。
   小谷父の声が激しい雨音にかき消される。
   幼い小谷、目を覚まし、泣き出す。
   小谷祖父、左右を見回し立ち去る。
   線のように降りしきる雨。豪雨。
   小谷祖父の姿が雨の中に消える。
   爆音がして、車が燃える。
   薄暗い雨の中、車がいつまでも燃えている。
(回想終わり)

 

○森の中・事故現場
   車は林道を通り、人があまり踏み入れないような、朽ち果てた野原に入る。車を停車。
   5人、車を降り、周囲を見回す。
岩見「ここが、小谷さんのご両親が事故に遭い亡くなった現場です」
   香川、カメラであちこちを撮影する。
山際「どうして女性の列車事故と関連付かなかったんですか?」
岩見「この事故現場が関係者もあまり通らない場所で、そのために発見が遅れ、女性の列車事故と別々のものとして扱われたんだ」
   野原の隅に、夫婦を模したような小さな地蔵二つ並んでいる。誰も手入れをしないため、地蔵の周りには落ち葉が積もっている。
   小谷、地蔵の周りの落ち葉を手で取り除く。
   5人、静かに地蔵に手を合わせる。
   小谷以外、車に乗り込む。
   小谷、名残惜しそうに振り向く。
   小谷の視線の先に、幻影が現れる。
   地蔵のそばに1台の車が現れ、そのそばに小谷父・小谷母(遺影の写真と同じ姿)が微笑んで並んで立っている。そしてこれらはやがて霞んで消える。
   小谷、笑顔で軽くうなずき、車に戻る。
   車が出発する。遠くなる車。
   地蔵の上を2羽の蝶が舞う。

 

○線路脇・コスモス畑(夕方)
   空は夕焼け。
   どこまでも続く線路。
   そのそばにコスモスが咲いている。
   小谷、大木、香川、山際、岩見の5人は周囲を見回す。
   遮断機のそばに、大きな地蔵がある。
   香川、カメラで周囲を撮影する。
   5人、地蔵に手を合わせる。
   その時、警告音が鳴り響き、遮断機が下りる。
   電車が通り過ぎる。
   5人、電車が通り過ぎる様子を見送る。
   5人、コスモス畑に視線を戻すと、そこに赤い傘を持った柳原倫香が立っているのに気づく。
   そのそばに、年配の男性・柳原父(55)が立っている。
   小谷、柳原倫香の姿を見て驚くも、以前の置き時計の符号点を思いだし、目を伏せる。
山際「何だ? 俺たちに用か?」
倫香「小谷君に用があって」
   倫香、笑みを浮かべている。
   大木、香川、顔を見合わせる。
大木「小谷君、隅に置けませんね」
   香川、メモ帳を取り出す。
香川「とりあえず、連絡先を聞いてもいいかな。ラインのIDとか」
   倫香、笑顔で首を振る。
倫香「私、ここで列車事故に遭った小松響子の娘です。(柳原を示し)こっちは、父」
   小谷以外の4人、驚愕する。
柳原「全部をお話するために、来ました」
   山際、しっかりと頷く。
山際「これで、真相解明できそうだな。香川、写真。大木、録音の準備」
   岩見、香川、カメラを構え直し、大木、鞄からボイスレコーダー、集音マイクを取り出す。
   倫香と柳原、地蔵に手を合わせる。
   コスモスが風で揺れる。
   空は夕闇に差し掛かっている。

 

○共同墓地
   倫香、柳原、小松響子の墓に花を手向ける。
   そのそばで、小谷、大木、香川、山際、岩見の5人は墓に手を合わせる。
   柳原、5人に向き直る。
柳原「私はずっと待っていました。(小谷を見て)小谷さん、あなたに会える今日という日を」
   小谷、表情を失い、蒼白になっている。
   柳原、小谷から目をそらし、遠くをみつめて話す。
   5人は固唾を飲んで聞き入る。
柳原「私の妻は、響子といいます。響子は町の生まれでした。私は、旅先で響子と出会い恋をして、この町に住むようになりました。住み始めてしばらくして、町が市町村合併して無くなるということで、行政と住民との意見交換会が何度か行われました。町の一部がダムに沈むという話が出たり、全員町から出ていかなければいけないといった、デマ話が、住民の中で囁かれていました。その頃から響子は心と身体のバランスを崩し始めていました。時々激しく泣いたり、物に当たって投げつけたり、私に暴力を振るうようになりました。私がもっと彼女を支えてあげれば良かったのですが、私にその力が無く、結局私たち夫婦はうまくいかず、倫香が5歳の時に離婚しました。倫香は私が引取りました。月に一度、響子と倫香の面会日が、事故のあった日でした。あの日は、妻の響子は、娘の倫香と二人で、線路沿いのコスモス畑を散歩に行きました」

 

○線路脇・コスモス畑(回想)
   線路そば、コスモス畑のあぜ道を並んで歩く母子(小松響子、柳原倫香)。
   踏切が警告音を鳴らす。
   電車が接近する。
   衝撃音。
   土砂降りの中、パトカー・救急車のサイレンが鳴り響き、傘を差したやじ馬、マスコミも集まり踏切前はごった返す。
   *   *   *
   周辺は規制線が張られ、ブルーシートで覆われる。
   柳原、傘を差しながら警察にブルーシートの中へと案内される。
   柳原、ブルーシートの中をのぞき込み、苦しげに顔をそむける。
柳原「間違いありません、私の妻だった、小松響子です」
警官「残念ながら、今のところ、上半身しか見つかっていません。下半身が見つかり次第、ご連絡します」
   *   *   *
   土砂降りの中、警察、野次馬、マスコミでごった返す事故現場。
   傘を手に呆然と立ち尽くす柳原。
   倫香が駆け寄り、柳原にしがみつく。
   柳原、倫香に気づき、傘を落とし、倫香の身体を抱き上げる。
   二人の様子に気づいたマスコミが二人を取り囲む。
   たかれるフラッシュ。
   雨に濡れる柳原、倫香。
   雨合羽を着たリポーター、柳原にマイクを向ける。
リポーター「亡くなった奥さんの響子さんは、上半身しか見つかっていないというのは本当ですか? 下半身はどこに?」
   柳原は何も答えない。
リポーター「列車への飛び込み自殺という話がありますが?」
   リポーター、何とか答えをもらおうと、強引にマイクを押し出す。
リポーター「亡くなった小松響子さんと離婚した原因は? 柳原さん、あなたが娘さんの倫香さんを引き取った理由は?」
   柳原、泣き出しそうな顔になる。
大粒の雨がその顔を濡らす。
   柳原、倫香を抱きしめたまま、大股でその場を後にする。  

 

○柳原の家・家前(朝)(回想)
   外は土砂降りである。
   郵便ポストに新聞を取りに出た柳原、家の前の道路にマスコミがいるのに気づく。
   目隠しをしたワゴン車、路上駐車数台。いくつもの傘が、道路に並んでいる。
   柳原、雨の中、新聞をポストから取り出し、乱暴にポストの口を閉め、足早に家の中に戻る。

 

○同・居間(回想)
   白い布が壁一面に貼られ、居間には仏壇がもうけられている。
   小松響子の写真が仏壇に飾られている。
   柳原、線香を手向ける。
   柳原、ソファに座り、新聞を読む。
   ソファのそばのテーブルで、倫香は菓子パン、オレンジジュースなどの簡単な朝食を食べている。
   柳原、怒りを込めて新聞を壁に投げつける。
   その音に、倫香はびくっと身体を硬直させる。
   *   *   *
   イメージ。
   新聞の紙面が並ぶ。
『列車事故・自殺か?』
『帰宅ラッシュ直撃・列車ダイヤ大混乱』
『凄惨な現場・身体真っ二つ』
『残された上半身・下半身はどこに?』
『現場は地獄絵図』
『土砂降り、困難な現場検証』
*   *   *
   柳原、頭を抱える。
   倫香、朝食を食べ終わり、柳原をじっと見つめる。
倫香「お父さん、あの車はどこに行ったの?」
   柳原、顔を上げる。
柳原「車?」
倫香「白い車。倫香がお花とってたら、白い車が来て、お母さんとぶつかったの」
柳原「ぶつかった?」
倫香「うん。お母さん、お空飛んで、二つになったの。お空みたいに赤くなってた」
柳原「白い車に乗っていた人は見た?」
倫香「大人の男の人と、女の人。車から出てきた」
柳原「(考え込みながら)白い車の話、誰かに言った?」
倫香「(首を振って)ううん。言ってないよ」
柳原「そうか。……倫香、食べたもの、片づけなさい。今日は幼稚園行かなくてもいいから」
倫香「(嫌そうに)えー?」
柳原「今日はお葬式だから、お客さんが沢山来るんだよ。早くお着替えしてきて」
倫香「はーい」
   倫香、コップなどを持って台所に行く。
   柳原、頭を抱える。
(回想終わり)

 

○共同墓地
  墓を前に、柳原が話す。
  柳原の様子をじっと見つめる倫香。
  小谷、山際、岩見は柳原の話を聞き入る。
  大木、マイクを柳原に向け、録音機器の確認をする。
  香川、柳原にカメラを向けたり、景色を撮ったりしている。
柳原「娘の話が本当なら、白い車が響子をはね飛ばし、殺したのだと私は確信した。私は白い車の行方を追った。色々と調べている時、雑木林で発見された男女の焼死体の記事を見つけた。白い車、時期、男女、符号点は多くあった。だが、妻の事件と関連付けられていなかった」
山際「あなたはどうやって小谷さんにたどり着いたんですか?」
柳原「雑木林の白い車の持ち主について警察に問い合わせたんだ。レンタカーということだけは分かったから、あとはしらみつぶしにレンタカー会社を当たった。男女の焼死体の行方も追った。遺族が遠くにいて遺体を引き取れないって聞いて、これは何かあると思った。僕は男女の遺体を引き取って供養をし、妻の隣の墓に入れてもらうように手配をした。いつか、この墓の遺族がここに来たときに、真相を話してもらおうと思って」
   柳原、晴れ晴れとした表情。
柳原「小谷君がここに来た。待ちに待った今日が、その日だ」
   小谷、涙をためた目で語る。
小谷「あの時、5歳だった僕は、事故の時、車に乗っていました。事故の後、僕は一週間くらい熱を出して寝込んだと聞きました。事故のことは全く覚えていません。父と母、祖父と僕、4人の旅行中の事故でした。祖母は具合が悪くて家に残りました。僕はここに来て、事件のことをやっと思い出しました。これからは、事件を世間に公表して、父と母、祖父の犯した罪を、僕なりに考えながら生きていきたいと思います。僕の両親を供養してくれて、本当にありがとうございました」
   小谷、柳原に向かって頭を下げる。
   倫香、バッグから木彫りの置き時計を取り出し、小谷に渡す。
小谷「これは……?」
   小谷、戸惑う。
倫香「この町の合併記念で作られた記念品。私の部屋で見たでしょ。これを見る度に、事件のことを思い出して」
   小谷、力なくうなずく。
倫香「私は、あなたをここに連れてくるよう、父に頼まれたの。私の役目はもう終わり。じゃあね」
   倫香、柳原、ともに笑顔で立ち去る。
   呆然と佇む5人。
   空が夕闇に包まれている。

 

○駅の改札前(朝)
   山際、岩見にお礼をする。
   小谷、大木、香川が並んで立つ。
山際「岩見さん、また何かあれば連絡してもいいですか」
岩見「君たちの頼みとあれば、喜んで協力しますよ」
   山際と岩見、固い握手をする。
   小谷、大木、香川も岩見と握手。
   肩を叩き、互いの労をねぎらう。

 

○喫茶店ケサランパサラン・店内
   テーブルソファ席に座る小谷、大木、香川、山際。
   マスター、近くの椅子を引き寄せ座る。
マスター「小谷君は、あれから悪夢は見なくなったのかい?」
   小谷、膝に置いた置き時計に目を落とす。
小谷「はい。事件のことを思い出してからは、全く」
マスター「それは、良かった。で、この件を雑誌とかの記事にしたいんだけど、いい? 名前とかはもちろん伏せるけど」
小谷「大丈夫です。柳原さんは記事にすることを望んでいると思うので」
香川「また悪夢見たら教えてよ!」
   小谷、苦笑する。
   山際、席から立ち上がり、『テケテケ事件』というファイルを本棚に納める。
   カウンターの奥から、マスターの奥さんが顔を出す。
   奥さん、ジロリと全員を睨む。
奥さん「あんたたち、領収書は早めに出すんだよ」
   談笑していた全員、動きが固まる。

 

○小さな霊園
   たくさんの墓石が並ぶ。
   墓に手を合わせる、小谷、車椅子の小谷祖母。
   墓には「小谷明 享年31歳、小谷百合恵 30歳、平成14年8月30日没 平成29年8月改葬」と書かれている。
   小谷、笑みを浮かべ墓を見つめる。
   墓の上には2羽の蝶が飛ぶ。
   小谷、祖母の車椅子を押して去る。

 

○駅売店前(朝)
   通勤客でごった返す売店前。
   倫香、週刊誌を購入する。
   週刊誌見出しは「都市伝説『テケテケ』十五年目の真実」。
   倫香、紙面を見て不敵な笑み。
   倫香、スーツケースを転がす。
   倫香の姿は雑踏の中に消える。

 

  完
 
 
◆執筆後記
数年前にテレビシナリオとして応募した作品。当然ながら見事撃沈。つまらないのもご愛敬。ホラー映画「テケテケ」を見ていて思いついた作品。

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