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シナリオ「ただいまの日」

◆あらすじ   

 中学三年生の杉山勇治は、偶然雨宿りをしたギャラリー星野のショーウィンドウに、自分の母親と似た絵を見つけ、気になり入店する。店では全盲の星野庄造が扉の絵を大切にしながら暮らしていた。
 十年前の事故で妻の節子、娘の夕子、自らの視力を失った星野が街をさ迷い酒に溺れる毎日を送っていたことから、隣人の江本は、星野に扉の絵を描くことを勧め、扉を開けて妻子が帰って来るようにと願い、星野は扉の絵を描いた。
 勇治は亡き母を思い父の再婚話に反発していた。亡き母親の絵をキャンバスに描く勇治。
 勇治は、江本の話から自分が星野の孫であり、自分が父の実子ではないことを知る。実子ではない事実から父に反発する勇治。
 その頃ギャラリー星野はマンション建築のための立ち退きを迫られていた。星野は扉の前から動くことを拒否、立ち退きも拒絶。一方、勇治は、自分が父の実子では無いことにショックを受けていた。学校でも嘲笑され。悔しさをにじませる勇治は、星野に孫だと打ち明けるか迷っていた。孤独を感じる勇治。
 突然街大地震が襲う。パニックの街。
 ギャラリー星野は倒壊。江本は勇治にお父さんを助けろと促す。勇治は迷ったが決断し、父を探しに行く。父の杉山は勇治を探しながら思い出を噛みしめ、勇治も父との思い出を思い出していた。家に到着した勇治と杉山は再会する。杉山は「お前は俺の子だ!」と叫び、勇治は涙を流す。
 八ヶ月後、復興が進んだ街。卒業式の日、勇治は杉山に再婚を認めると告げる。
 地震後に新築したマンションで、江本は勇治に説明する。星野の相続人である勇治がギャラリー星野を受け継ぐこと、杉山と江本はギャラリー星野の再建に動いていたことを。
ギャラリー星野の入口には、絵を再現した扉が設置されていた。勇治は「ただいま、おじいさん」と言って扉を開けるのであった。

 

◆登場人物一覧

杉山勇治(15)

杉山剛(45) 勇治の父。
星野庄造(65) ギャラリー星野店主。
江本(65) 家具のえもと店主。
江本の妻(63) 
杉山夕子(30) 勇治の亡母。
光井まりこ(40) 杉山剛の再婚相手。
吉田(40) 市の都市計画担当
山元(55) 不動産屋
宮島(54) オーナー
商店街の人たち
教師
生徒たち
アナウンサー

 

◆シナリオ本編

○ふじのやま高等学校・敷地内
   下校のチャイムが鳴っている。
   生徒らが楽しそうに談笑しながら下校。
   運動場では野球など部活動をしている。
   杉山勇治(15)、建物掲示板を見ている。
   壁の掲示は、「ふじのやま高校 芸術美術コースの樋口くん 文化芸術祭 金賞受賞おめでとう!」とある。

 

○同・事務局窓口
   事務員、木の無さそうな様子で大判の茶封筒を勇治に渡す。
   封筒を受け取る勇治、目を伏せる。
   封筒の表には『ふじのやま高等学校入学願書』。

 

○同・校門外
   勇治、封筒を開いて中を見る。
   入学願書、『芸術美術コース』課程のパンフレットを見つめる。
   願書にポツリと雨が落ちる。
   空を見上げる勇治。
   薄暗い雲。
   突然の大雨。
   願書を胸に抱え、駆け出す勇治。

 

○(回想)杉山家・勇治の部屋
   中学生らしい、雑然とした部屋。
   カーテンは閉まり、薄暗い。
   壁には油絵のカレンダーの切り抜きがいくつか貼られている。
いずれも古く染みがある。
   キャンバスに向かい絵筆で色をのせる勇治。
   三十代女性の上半身を書いている。
   キャンバスのそばには写真が無造作に貼られている
   セピア色の写真の中には、微笑む女性。
   女性の目の下には、特徴的なほくろ。
   勇治、写真と絵を見比べながら、丁寧に色をのせていく。
   突然、小さな地震が起き、ガタガタと部屋が揺れる。
   部屋の蛍光灯が揺れる。
   揺れのせいで勇治の絵筆が滑り、絵の女性の目の下のほくろを描こうとしていた色をはみ出してしまう。
   勇治、ため息をついて絵筆を水の入ったコップに投げ込む。
   勇治、ベッドに転がる。
   写真の女性のそばには、5歳くらいの男の子が写っている。

 

○(回想)同・部屋の前
   杉山剛(45)、少しためらいながら、部屋のドアが軽くノックする。
   しんと静かな廊下。
   杉山、少し迷い、ドアを細目に開けて、勇治を呼ぶ。
杉山「勇治、話があるから、下りてこい」
   勇治の返事はない。
   杉山、溜息をついてドアを閉め、勇治の部屋前を後にする。

 

○(回想)同・勇治の部屋
   ベッドに寝転がっていた勇治、起きあがる。

 

○(回想)同・リビング
   父子家庭らしい、雑然とした室内。
   リビングの隅の仏壇には、勇治がキャンバスに描いていた同じ女性の写った写真立てがある。
   位牌に『杉山夕子享年三十歳』とある。
   食卓の椅子に座り、勇治を待つ杉山。
   杉山、テレビのスイッチを押して消す。
   静かなリビング。
   杉山の手元には女性の写真。
   杉山、神経質そうに机を規則的に叩く。
   リビングに来た勇治、嫌そうな様子を露骨に見せ、杉山の向かいの席に座る。
   勇治、杉山をにらんでいる。
   杉山、勇治の顔をじっと見ながら、机の写真を見せる。
   優しそうな笑顔を浮かべる女性の写真。
杉山「勇治、この女性、覚えているか」
   勇治、杉山を見ないように顔をそらす。
勇治「うん」
杉山「去年の暮れに、一緒に食事をしたのを覚えているか。光井まりこと言うんだ。父さんはこの人と結婚しようと思う」
   勇治、表情が固まる。
   杉山、勇治の表情をじっと見ながら、
杉山「まりこさんは、父さんが働いている工場で、事務をしている。優しい人だ。きっと勇治も気に入ると思う」
   勇治、顔を杉山に戻し、にらみつける。
目は涙が浮かんでいる。
勇治「母さんは、どうなるんだ」
   勇治、振り返って仏壇を見る。
   杉山、諭すように、
杉山「勇治。母さんが亡くなってもう十年だ」
   杉山、ため息。
杉山「お前は今年で十五歳だ。死んだ人は帰ってこない。分かっているだろう」
   勇治、憮然とした表情で立ち上がる。
杉山「勇治! 話はまだ終わってない」
   勇治、リビングを出ようとする。
杉山「勇治! 高校はどうなったんだ! 決まったなら教えろ――」
   勇治、杉山をにらみつけて出て行く。
   杉山、ため息。

 

○商店街
   本降りの雨。
   雨に濡れた商店街。
   勇治、願書を濡れないようにしっかりと抱えながら走る。
左右を見回し、雨宿り先を探す。
   どこまでも続く雨。
 
○ギャラリー星野・外観
   見るからに古い、老朽化した建物。
   ショーウインドウの中に数枚の絵画が飾られている。

 

○同・店先
   勇治、雨宿りのため店先に飛び込む。
   全身ずぶぬれである。
   勇治、抱えていた願書を背負っていたリュックサックの中に入れる。
   顔を上げて店のショーウィンドウに飾られてある絵に気づく。
   風景画、静物画等、いくつも展示されている中に、女性の絵がある。

 

   *   *   *
   イメージ。
   勇治の描くキャンバス。
   勇治がモデルにしている写真。
   写真の女性の目の下にある特徴的なほくろ。
   店に飾られた女性の絵。
   絵の女性の特徴的なほくろ。
   女性の微笑み。
   勇治の描く女性と、写真の女性、店に飾られた女性の絵が二重写しのように重なり合う。
   イメージ終わり。
   *   *   *

 

   勇治、息をのむ。
勇治「母さん……?」
   店の看板を見る。
   『ギャラリー星野』
   ガラス戸には『本日、開店中』。
   勇治、ためらいながらも、入店する。

 

タイトル『ただいまの日』

 

○ギャラリー星野・店内・奥
   星野庄造(65)、大きな扉の形を描いた 
キャンバスを拭いている。
   星野は全盲であり、手探りの作業。
   時々、立ち上がり、物にぶつかりながらも、拭き終える。
   星野、扉の絵が描かれたキャンバスをコツコツとノックするように叩き、音を確かめる。
星野「これで良し、と」
   星野、満足げ。
   その時、ギャラリーの入り口のドアに取り付けているチャイムが鳴る。
   星野、顔を上げる。
星野「おや、お客さんかな」
   星野、手探りのまま、店の入り口の方向に向かう。

 

○同・店内・ギャラリースペース
   勇治、入店し、左右を見回す。
   老舗の古くさい、小さな画廊である。
   ショーウィンドウに飾られていた女性と同じ絵がいくつか飾られている。
   雑然としていて、壁際にキャンバスが無造作に立てかけられている。
   勇治、緊張した面持ちで、
勇治「あの、すいません」
   店の奥から、星野が出てくる。
   星野、手探りの中、レジスター前の椅子に座る。
勇治「あの……」
   勇治、星野の目が見えないことに気づく。
勇治「あ、あの……すいません」
星野「何か気になる作品でもあるのかね」
勇治「あ、はい。あの、店の表の、ショーウィンドウに飾ってある女性の絵なんですけど……」
   星野、笑顔になって、
星野「あれかね、娘の夕子だ」
   勇治、驚いたように、
勇治「夕子? もしかして……」
星野「夕子は今、孫と一緒に買物に行っている。もうすぐ戻ると思う」
   勇治、落胆したように、
勇治「そう、ですか……」
星野「それじゃあ、好きなだけ見ていきなさい」
   星野、椅子から立ち上がる。
   勇治、恐る恐る尋ねる。
勇治「あの、おじいさん、目が見えないんですか?」
星野「(笑って)君ははっきりと聞くね。目の見えない人が珍しいのかね?」
勇治「ええ、まあ」
星野「十年くらい前かな、事故でね。あれから何も見えない」
勇治「あの、おじいさん……」
星野「私の名前は星野庄造。星野と呼んでくれ。君、名前は? 小学生なのか?」
勇治「(むっとしたように)杉山勇治。一応、来年高校生です。合格したら、ですけど」
   星野、頭をかいて、
星野「こりゃすまない」
勇治「あの、星野さん」
星野「ん?」
勇治「目が見えないのに、絵が分かるんですか?」
   星野、笑って、
星野「キャンバスを触れば大体分かるものだ。後は慣れだ。店にある絵は全部、目が見えなくなる前に書いたものだ。一つだけ、見えなくなった後に書いたものがある。見てみるかい?」
   勇治、驚き、嬉しそうに、
勇治「はい!」
   星野、店の奥に行く。
   勇治、星野の後についていく。

 

○同・店内・店の奥
   所狭しとキャンバスや画材などが積まれている。
   雑然とした雰囲気。
   奥の壁に立てかけられた、等身大の大きなキャンバスには、古ぼけた木製の扉の絵が描かれている。
木目や特徴的な意匠の施された取っ手の部分まで繊細に表現されている。
   扉の絵に歩み寄る星野。
星野「この絵は、『おかえり』っていう絵だ」
勇治「『おかえり』?」
   星野、勇治に椅子を勧める。
   勇治、椅子に座る。
星野「十年前、事故に遭ってから妻の節子が帰ってこなくなった。娘の夕子も」

 

○(回想)病院・病室
   星野、ベッドの上で目覚める。
   目から頭部にかけて大きな包帯が巻か   
れている。
看護師と言い争う星野。
看護師が制止するのも聞かず、退院する星野。

 

○(回想)街のどこか
   目が見えない状態で町をさ迷う星野。

 

○(回想)街の花屋
   店員に妻子のことを尋ねるが断られる星野。

 

○(回想)街の書店
   店員に妻子のことを尋ねるが断られる星野。

 

○(回想)街の交番
   巡査に妻子のことを尋ねるが断られる星野。

 

○(回想)街のどこか
   目が見えない状態で町をさ迷う星野。どんどん全身が汚れている。

 

○(回想)商店街の一角
   歩き疲れて路上で寝そべる星野。
   足下に酒瓶が沢山転がっている。
   ひそひそ話をする商店街の人たち。
   商店街の人たち、星野を連れ出す。

 

○(回想)星野自宅・庭
   庭付きの戸建てだが、庭の草が伸び放題、廃墟のようである。

 

○(回想)星野自宅・庭
   草刈り作業をする商店街の人たち。

 

○(回想)星野自宅・室内
ごみ屋敷のように散らかっていた室内を掃除する商店街の人たち。
   徐々に片付いていく室内。
   キャンバスなどの画材道具も運び込まれる。

 

○(回想)星野自宅・リビング
   白いキャンバスの前に座る星野。
   手探りの中、パレットに絵の具を出し、指先で絵筆を確認し、キャンバスに塗っていく星野。
   青緑黒といった歪な色が塗られていく。
   目が見えないために思うように絵が描けないことに苛立ち、画材道具を壁に投げつける。
   水を入れたバケツが衝撃で倒れ、水が床に広がる。
   強い酒をあおる星野。
   床には沢山の酒の瓶。
   散らばる画材道具。

 

○ギャラリー星野・店内・店の奥
   星野、《おかえり》のキャンバスを愛おしそうに撫でる。
星野「商店街の人たちは、きっと妻の節子と娘の夕子は、迷子になっているって言うんだ。それで隣の江本さんが助けてくれて、この絵を書いたんだ。この扉の絵さえあれば、節子と夕子は迷うことなく、いつでもここに帰って来られるって」
 
○(回想)星野自宅・リビング
   江本(65)、目の見えない星野に絵筆を握らせ、キャンバスに色をのせていく。
   星野、絵筆を握り、キャンバスに顔を近づけ、絵をのせる。
   そばで見ている江本。
   パレットを床に落とし、床を絵の具だらけにする星野。
   床を拭く江本。
苛立ち、画材を壁に投げつける星野。
星野を説得する江本
   水入れをこぼし、怒りに震える星野。
思い直し、床を拭く星野。
   そばでほほ笑んで見つめる江本。
   ようやく完成した絵の手触りに、涙を流して喜ぶ星野。
   労をねぎらい、肩を叩いて喜ぶ江本。
   完成した扉の絵。
   光り輝くような扉。

 

○ギャラリー星野・店内・店の奥
   星野、扉の絵をなでる。
   うっとりと、幸せそうな表情。
   星野、扉の絵をノックする。
耳を寄せてうなずく。
星野「まだ帰って来ないようだ」
   星野、笑顔。
   勇治、何とも言えない表情。

 

○同・店先
   雨は上がり、青空が広がっている。
   勇治、店を出る。

 

○杉山家・外観(夜)

 

○同・玄関
   勇治、靴を脱ぎ、家に上がる。
   玄関の物音に気付いた杉山が玄関に顔を出す。
杉山「遅かったな」
   何も言わない勇治。
   杉山、怒った様子で、
杉山「返事しろよ、勇治」
   勇治、靴を靴箱に投げ込み、勢いよく靴箱を閉める。
   音が大きく響く。
   勇治、杉山のそばを素通りし、二階へ上がる。
   杉山、ため息。

 

○同・勇治の部屋
   勇治、キャンバスに貼られた写真を取り上げる。
勇治「母さん……」

 

○ギャラリー星野・店前
   学校帰りの勇治、学生服のまま、店の前に立つ。
   入り口のガラス戸の取っ手をつかむが、開かない。
   ガラス戸には『本日は都合により閉店します。またのご利用をお待ちしています』。
 
○家具のえもと・店先
   ギャラリー星野の隣店、家具のえもと。
   汗だくになりながら、店先の家具を磨いていた江本、隣店前の勇治に気付く。
江本「今日は星野さん、病院だよ」
   勇治、声に振り向く。
勇治「病院って?」
江本「星野さん、心臓悪くてね。時々薬もら 
いに行っているよ」
   江本、勇治の顔を見て驚く。
江本「あんた、星野さんのところの……」
   勇治、驚く。
勇治「え?」
江本「ああそうだ、君、星野さんのお孫さんだろう。星野さんの若い頃によく似てるなあ。名前は、ゆう、ゆう……夕子は娘だから、ゆう、勇治、だったかな」
   勇治、驚いて声も出ない。
江本「違うのか?」
勇治「あ、いえ、あの、あの、えーと……」
   勇治、焦る。
   江本、大笑いをする。
   江本の声に気付いた江本の妻(63)、店の中から出てくる。
   江本の妻、勇治に気づき、笑顔で手招きする。
江本の妻「暑いから、中で涼んで行きなさいね。手作りおはぎもあるのよ」
   江本と江本の妻、店の中に入る。
   勇治、迷いながらも中に入る。

 

○同・店内
   タンスや椅子、テーブルなど、手作り家具が並べられている。
   勇治、落ち着きなく周りを見回しながら、家具を見る。
   丁寧な作りで、木目が美しい。
   江本、勇治を店の奥のテーブルに案内する。
   着席した勇治、落ち着かずに見回す。
   江本、着席したが再び席を立ち店の奥に行く。
   江本と入れ替わり店の奥から江本の妻が麦茶・おはぎ・おしぼり(それぞれ三個)を乗せた盆を持ってくる。
   江本の妻、持ってきたこれらを配膳しながら、勇治に向って、
江本の妻「江本の妻です。あなた、お名前は?」
   勇治、緊張した様子で、
勇治「杉山勇治といいます。隣の星野ギャラリーに来たんですが、留守みたいで……」
江本の妻「星野さん……ああ、今日は病院の日だったわね」
   江本の妻、着席。
   江本、店の奥から戻ってくる。
手には古い写真アルバム。
江本「なつかしいものばかりだ」
   写真には、古い町並みが写っている。
   江本と星野が肩を組んだ若い頃の様子や、店のオープン時が写っている。
   勇治、江本の妻も写真を見る。
   江本、着席し写真をめくっていたが、中から一枚の家族写真を見つける。
若い頃の、星野、妻の節子、娘の夕子の三人が写っている。
夕子のお腹は大きい。
江本「これが星野さん、奥さんの節子さん、娘の夕子さん。この時にお腹に入っていたのが、勇治君、君だ」
   勇治、笑顔になる。
江本「で、このすぐ後に、夕子さんのだんなさんが亡くなったんだっけ」
勇治「え?」
   勇治、固まる。
   江本、しまったという顔をする。
江本「あっ! 知らなかった?」
勇治「え、ええ」
   江本の妻、江本をたしなめる。
江本の妻「あなた!」
   江本、頭をかく。
江本「夕子さん、君を産む前にだんなさんを病気で亡くしたんだよ。女手一つで君を育てている時に再婚したんだっけな。その後に事故に遭ったんだよ」
江本の妻「あの事故はいつでした?」
江本「十年くらい前じゃないか?」
勇治「母が亡くなった事故ですか?」
江本「そう」
江本の妻「あれはひどい事故でしたね」

 

○(回想)道・交差点付近
   赤信号で停車する車。
   運転席に星野、後部座席に節子、夕子。
   夕子の膝には誕生日ケーキの箱。
   節子、誕生カードを開いている。
   《ゆうじくん 5歳のおたんじょうび おめでとう》
   笑顔で会話をする3人。
   青信号に変わり、進行する車。
   突然、反対車線からトラックが突っ込んでくる。
   衝撃。
   後部座席足元の誕生ケーキがひっくり返って落ちる。
   フロントガラスに張り付いた誕生カードには血がにじんでいる。

 

○家具のえもと・店内
江本「あの事故で星野さんは目が見えなくなって、おまけに頭をやられてね。妻と娘が死んだことを決して受け入れなかったんだ」
江本の妻「お葬式もしたんだけど、どうしても認めなくて、奥さんと娘さんを探すって言って、あちこち探し回って、大変だったわ。毎日お酒飲んで暴れて」
江本「勇治君、星野さんのギャラリーで、扉の絵を見たかい?」
勇治「ええ、見ました。《おかえり》っていう扉の絵ですよね」
江本「そう、あれは、私のアイデアなんだ。毎日奥さんと娘さんを探し回って、大酒飲んで暴れている星野さんに、立ち直るきっかけを作ってあげたかったんだ。扉の絵を描いて、その絵の前で奥さんと娘さんを待ってみてはどうかと勧めたんだ」

 

○(回想)ギャラリー星野・店内
   扉の絵の前で椅子に座り待つ星野。
   手にはウイスキーのグラス。
星野、微笑んでいる。

 

○家具のえもと・店内
江本「それはそうと、星野さんは、君のことを孫だって知ってるのかい?」
勇治「いえ……」
   江本、勇治を叱る。
江本「なぜ教えないんだ。家族を失った星野さんが、どんな思いで十年間待ち続けているか、君には分からないのか?」
   江本の妻、江本をたしなめる。
江本の妻「あなた!」
   江本、頭をかく。
江本「すまない。言い過ぎてしまった」
勇治「いえ……」
江本の妻「星野さん、心臓が悪いのよ。大切にしてあげてね。あなたの大切なおじいさんなんだから」
勇治「はい……」
勇治、頭を下げる。

 

○家具のえもと・店先(夕刻)
   勇治、夕焼けの空を見上げる。
   勇治の手には写真がある。
それは若い頃の星野、妻の節子、娘の夕子が写っている。

 

○杉山家・玄関(夜)
   勇治、靴を脱ぎ、家に上がる。
   玄関の物音に気付いた杉山、玄関に顔を出す。
杉山「おい、毎日どこに行っているんだ」
   何も言わない勇治。
杉山「返事くらいしろ! 勇治」
   勇治、靴を靴箱に投げ込み、勢いよく靴箱を閉める。
   音が大きく響く。
   勇治、無言で杉山のそばを素通りする。
   勇治、杉山に背中を向けたまま、
勇治「僕、父さんの本当の子どもじゃないんだろ。だから毎日、ガミガミ叱るんだろ!」
   杉山、表情を変える。
杉山「……誰から聞いた」
   勇治、涙をためた目で怒鳴る。
勇治「本当の父さんは、僕が母さんのお腹にいるときに死んだんだろ!」
杉山「……勇治、聞いてくれ、父さんの話を」
勇治「誰が父さんだよ。まりこさんと再婚して、僕を捨てるつもりなんだろ!」
   勇治、言い捨てて振り向かずそのまま2階へ上がる。
   杉山、肩を落とす。

 

○ギャラリー星野・店内
   奥のテーブル席に、市の都市計画担当の吉田(40)、不動産屋の山元(55)、オーナーの宮島(54)が座っている。
   星野、手探りをしながらお茶を持ってくる。
   お茶を配膳した星野、三人の前に座る。
星野「申し訳ないが、何度来てもらっても、できないものはできないんですよ」
吉田「いいですか、あなた一人の問題じゃないんですよ。ふじのやま市の再開発計画は、市民一人ひとりの協力が必要なんです」
宮島「私は、商店街の外れにあるこの場所に、マンションを建てて、若い人たちを住まわせたいんです。人が集まれば街は活性化する。別にあなたを追い出す訳じゃない。一旦立ち退いてもらった後は、補償金として、新しいマンションの一階に、同じようにお店を作ってもいいと思っているんです」
星野「何度も言うようだが、私は新しいお店は要らないんだ。この場所が必要なんだ」
山元「星野さん、よく考えて下さいよ。こんな美味しい話、普通ないですよ。マンションを建築する時の引っ越し費用も全部、こちらのオーナーの宮島さんが出してくれるんですよ」
   宮島、うなずく。
   星野、立ち上がり、扉の絵の前に行く。
星野「私にはこの場所が必要なんだ。ここから出て行ったら、妻と娘が帰って来れなくなる」
   山元、呆れて、
山元「噂通りの偏屈じいさんですね。扉の絵の話はもういいでしょう。大体、奥さんも娘さんも亡くなってもう十年経つって言うじゃないですか。何を馬鹿なことを」
   星野、激怒する。
星野「いい加減なことを言うな! 節子も夕子も必ず戻ってくる! さあ、話は終わりだ、 出て行ってくれ!」
   吉田、宮島、山元、呆れて顔を見合わせる。
   店を出て行く三人。
   星野、扉の絵の前で泣き崩れる。

 

○ふじのやま中学・教室
   教師が英語の授業をする。
   真ん中の席に座る勇治。
   勇治、上の空で授業が耳に入らない。

 

○(回想)家具のえもと・店内
江本「夕子さん、君を産む前にだんなさんを病気で亡くしたんだよ。女手一つで君を育てている時に再婚したんだっけな。……」
   『だんなさんを病気で亡くした』とフレーズだけが残響しリフレインされる。

 

○ふじのやま中学・教室
   教師、勇治を指さし大声で呼ぶ。
教師「杉山! おい杉山!」
   上の空のる勇治、教師に呼ばれている声が耳に入らない。
   教師、勇治の机のノートを取り上げ、勇治の頭を叩く。
教師「お前はまた下手くそな絵ばかり書いてたんだろう」
   生徒たちが笑う。
   教師、見せびらかすように、ノートをひらひらさせる。
   勇治、顔を伏せる。
   勇治のノートには、消しゴムや本などの静物画がスケッチされている。
教師「紙の無駄遣いなんだよ、杉山」
   生徒たちが笑ってはやし立てる。
生徒たち「画伯! 画伯!」
   勇治に丸めた紙屑が投げつけられる。
   勇治、唇を噛みしめ、拳を握り締める。
   勇治、顔を上げ、ふっ切れたように教科書をリュックに詰めて立ち上がる。
生徒たち「画伯! 画伯!」
   はやし立てる生徒たち。
   教室の出口に立つ勇治の背中にボールが投げつけられ、勇治、たたらを踏む。
   教師、教科書を叩く。
教師「はいはい。えーと、杉山は本日朝から欠席だったということでーー」
   生徒たちが笑う。   
   勇治、唇を噛み締めたまま、大股で歩き、教室を後にする。

 

○ギャラリー星野・店内
   店内は絵が片づけられてすっきりしている。
   勇治、ギャラリーの中を見回して、絵が少ないことに気付く。
   店の奥で江本が絵をダンボールに片づけている。
   扉の絵の前で座る星野、背中を丸くしてぶつぶつと呟いている。
   勇治、江本に近づき、
勇治「江本さん、どうしたんですか?」
   振り向く江本。
江本「勇治君。実はね、ここを立ち退かないといけなくなってね」
   勇治、驚く。
勇治「立ち退き?」
江本「私の店も立ち退きするんだ。そしてここにマンションが建つ」
勇治「マンション?!」
江本「立ち退きの補償金でマンションの一階に星野さんと私のお店が入ることになった」
勇治「凄いですね」
江本「マンションのオーナーが美術品とか骨董品が好きらしくて。ありがたい話だよ」
   勇治、星野を見て、
勇治「星野さんは?」
江本「朝からずっと扉の前から離れない。妻と娘が帰ってくるのを待つといって聞かないんだ。立ち退きは渋々オーケーしてサインしたけど、それからずっと、扉の前だ」
   勇治、話しかけようと近づくが、星野、全く振り向こうとしない。
   勇治、江本を見る。
   江本、肩をすくめる。

 

○杉本家・勇治の部屋
   ベッドに寝転がる勇治。
   手には、江本からもらった写真。
   勇治、写真を見つめる。
勇治「星野さんは、僕のおじいさん……」
   勇治の目から涙が落ちる。
勇治「僕の本当のお父さんはもういない……」
   勇治、嗚咽する。
勇治「僕は、一人だ……」

 

○同・勇治の部屋の外
   杉山、細く開けて中の様子を見ていたが、ドアを静かに閉める。
   杉山、大きなため息をついて、一階に下りていく。

 

○ギャラリー星野・店内
   扉の絵以外、全てが片づけられて空っぽの店内。
   扉の絵の前で、床に直接座る星野。
   手にはお酒がある。
   微笑む星野。

 

○(回想)公園
   公園でスケッチをする学生服の星野と、女学生の節子、談笑している。
   よちよち歩きの赤ちゃんの夕子を真ん中に一緒に散歩する節子、星野。

 

○(回想)ギャラリー星野・店先
   開店祝いの花が飾られている。
   星野、節子、隣の家具屋の江本と並んで記念撮影する星野。

 

○(回想)星野家・居間
   星野、節子、女学生の夕子との食卓。
   夕子が恋人を紹介し驚く星野、節子。
 
○(回想)結婚式場
夕子の結婚式で泣く星野、節子。

 

○(回想)病院・病室
   病院のベッドで先夫の臨終に立会い、泣き崩れるお腹の大きい夕子、そばで泣く星野、節子。

 

○(回想)ギャラリー星野・店内
   子どもの勇治を膝に抱く夕子をモデルに絵を描く星野。

 

*   *   *
   イメージ。
並んで歩く四人、星野、節子、子ども勇治、夕子。
   四人の歩く先に夕景、その中に光り輝く扉がある。
   節子が扉を開けて中に入る。
   続いて勇治を抱えた夕子が入る。
   星野が取っ手に手をかけ、中に入ろうとした瞬間、扉が跡形もなく消える。
   星野、泣き崩れる。
   イメージ終わり。
*   *   *

 

○ギャラリー星野・店内
   地面が大きく揺れる。
   天井の蛍光灯が激しく揺れる。
   星野、床に伏せる。
   星野の上に扉の絵が倒れる。
   何かが次々と崩れる音。

 

○ふじのやま中学・学校外
   学校帰りの生徒が沢山いる。
   勇治、突然、視界が揺れ、座りこむ。
   悲鳴が聞こえる。
生徒たち「地震だ!」
   走り出す生徒たち。
   勇治、立ち上がり慌てて駆け出す。

 

○商店街・店頭テレビ
   テレビの緊急地震速報。
   《震源 ふじのやま市 震度6 マグニチュード6》
   アナウンサーが繰り返し地震情報と身の安全を確保するように伝える。
   商店街は行き交う人でパニック状態。

 

○ギャラリー星野・店前
   建物は倒壊し、瓦礫になっている。
   駆け付けた勇治、息も絶え絶え。
勇治「星野さん! 星野さん!」
   勇治、コンクリートを持ち上げようとするが、動かない。
   江本が駆けつける。
江本「勇治君、危ない、ここは危険だ!」
勇治「でも、星野さんが……」
   江本、悔しそうに首を振る。
江本「救助が来るまでは手も足も出ない」
勇治「でも僕、まだ言っていないんだ! 星野さんに本当のこと。僕が孫だって!」
   江本、勇治、ともに泣き崩れる。
江本「いいんだ、もう、それはいいんだ」
勇治「星野さん、ずっと扉の前で待ち続けて ……何で僕は言わなかったんだろう、僕は馬鹿だ、僕は……」
   江本、勇治を押し出す。
江本「勇治君、君にはお父さんがいるだろう」
   勇治、目を見開く。
勇治「でも、父さんは……」
江本「君のお父さんはたった一人だろう。お父さんはどこだ。探してこい」
勇治「父さん……」
   江本、勇治の体を揺する。
江本「いいか、今行かないと一生後悔するぞ! 家族を守れ! 勇治君!」
勇治「……うん!」
   勇治、走り出す。

 

○地震の街のモンタージュ
   地震に襲われた町。
   あちこちで黒煙が上がっている。
   壊れた建物。
   帰宅困難者で溢れる町。
   けがの手当てを待つ人たち。
   建物の屋上で助けを呼ぶ人たち。

 

○ふじのやま中学校・校門前
   避難場所となっている学校には地域の人たちが集まっている。
   杉山、集まっている人の中を見て探す。
杉山「勇治! 勇治! 杉山勇治!」
   学生服の集団を見つける。
   生徒たちの中に飛び込む杉山。
杉山「私の息子、見ませんでしたか? 杉山勇治です。どこかで見ませんでしたか?」
   首を傾げる生徒たち。
   走り出す杉山。

 

○街のどこか
   走る杉山。
   学生服を見つけて声をかける杉山。
   人違いと分かり、謝る杉山。
   再び走り出す杉山。

 

○(回想)杉山の会社(建設会社)・社内
   事務机で作業する夕子、見つめる杉山。

 

○(回想)同・会社前(夜)
夕子を待ち伏せし、夕子に手紙を差し出す杉山、驚く夕子。
   照れくさそうに頭をかく杉山。

 

○(回想)レストラン・店前(夜)
   正装し緊張して待つ杉山。
   幼い勇治を連れた夕子に戸惑う杉山。

 

○(回想)レストラン・店内
   食事をする夕子、杉山、勇治。
   勇治に話しかける笑顔の杉山。

 

○(回想)公園
   散歩する夕子、勇治、杉山。

 

○(回想)杉山家・居間
   バースデーケーキを囲み、火を吹き消そうとするができずに泣く勇治、大笑いする夕子と杉山。
   夕子の通夜で喪主を務める杉山。
そばでおもちゃで遊ぶ勇治。

 

○(回想)街のどこか(夕方)
   買い物袋を手に、勇治を背負う杉山の後ろ姿。

 

○街のどこか
   帰宅困難の避難民で溢れる道路。
   杉山、立ち止まり、大声で叫ぶ。
杉山「勇治! 勇治!」
   杉山の声が長くリフレイン。

 

○街のどこか
   勇治、走りながら叫ぶ。
勇治「父さん! 父さん!」

 

○(回想)学校・教室
   参観日で発表する勇治を嬉しそうに見つめる杉山。

 

○(回想)学校・運動場
   運動会で、弁当にかぶりつく勇治を嬉しそうに見つめる杉山。

 

○(回想)杉山家・勇治の部屋
   ベッドの上で熱にうなされる勇治の着替えをさせる杉山。

 

○(回想)杉山家・食卓
   エプロン姿の杉山、食卓で待つ勇治。

 

○(回想)神社・縁日(夜)
   勇治を肩車し、縁日の催しや見世物を見せて歩く杉山。
 
○杉山家・庭(夕方)
   地震で倒壊した家。
   勇治、周囲を見回しながら杉山を探す。
勇治「父さん! 父さん!」
   屋根が傾いている。
   勇治、思い出したように、
勇治「母さんの写真!」
   勇治、傾いた屋根の中に入ろうとする。
   がたん、と屋根が傾く。
   勇治、慌てて建物から遠ざかる。
   家に到着した杉山、中を覗き込む。
杉山「勇治!」
   杉山の場所からは勇治の姿が見えない。
杉山「勇治、死ぬなよ! 絶対に死ぬな!」
   杉山、大声で叫びながら、屋根のそばにやってきて、勇治と同じように屋根を持ち上げようとする。
   勇治、杉山、互いに気付く。
   一瞬止まったような時間。
   杉山、顔面を歪め、勇治に駆け寄る。
   勇治、固まって動けない。
   杉山、勇治の頬を思い切り叩く。
勇治「何すんだよ……」
   勇治、杉山をにらみつける。
   杉山、勇治を抱擁する。
杉山「馬鹿野郎! 死んだと思ったんだよ!勇治! 心配させるなよ!」
   勇治、目を開く。
勇治「父さん……」
杉山「馬鹿野郎! この、大馬鹿野郎……」
   勇治、泣きながら謝る。
勇治「父さん、ごめんなさい、父さん、ごめんなさい」
   杉山、泣きながら叫ぶ。
杉山「いいか、よく聞け! お前は、俺の子どもだ! 誰が何と言おうと、お前は、俺の、たった一人の、大切な子どもだ!」
勇治「父さん、ごめんなさい、父さん、ごめんなさい」
   救急車・消防車のサイレンが聞こえる。
   重なり合う二人の姿が夕闇に消える。

 

T「八カ月後」

 

○復興の進んだ商店街
   瓦礫を運び出す若者ボランティアの姿。
   炊き出しボランティアの姿。
   商店街の店頭でおしゃべりをする中年女性たち。
   忙しく物を運び出す中年男性たち。
   昼寝をする猫。
   買い物をする親子連れ。
   穏やかな日常。

 

○中古アパート・外観(朝)

 

○同・杉山の部屋
   雑然とした室内。
   洗面所でネクタイをする杉山。
   勇治、洗面所に顔を出す。
杉山「卒業式は、十時、だよな」
勇治「うん。じゃ、行ってきます!」
杉山「おう」
   勇治、行きかけたが、洗面所に戻り、
勇治「父さん、帰りに、ギャラリー星野に行ける?」
   杉山、洗面所を出て、
杉山「もうオープンするのか? 早いな」
勇治「オープンはまだらしいんだけど、江本さんが、一足先に見て欲しいって」
杉山「オッケー」
   出て行こうとした勇治、思い出したように再度戻ってくる。
杉山「何だ、忘れものか?」
勇治、少し黙っていたが、
勇治「お父さん、再婚、していいよ。僕、まりこさんのことを『お母さん』って呼べないと思うけど」
   驚く杉山。
勇治、はにかむように、
勇治「……今のところ、言いたいことは、それだけ」
杉山、笑顔でうなずく。
杉山の目に、光。

 

○ふじのやま中学・教室
   生徒たち、全員着席している。
   勇治、真ん中の席に座っている。
   教師、神妙な面もちで、
教師「今日、みんなは卒業式を迎える。この中学校の生徒でいられるのは、今日が最後だ。後悔だけはするなよ」
生徒「はい!」
   教師、新聞紙面を広げて見せる。
満面の笑み。
教師「それから、めでたい知らせがある。杉山勇治君の描いた絵が、全国の芸術コンクルールで特選を受賞した」
   どよめく生徒たち。
   拍手が起こる。
   恥ずかしそうな勇治。
教師「勇治君は、ふじのやま高校の芸術美術コースに進学が決まっている。えーっと、(咳払いして)いつだったか、『下手な絵』と言ってすまなかったな」
   生徒たち、笑う。
   勇治、穏やかに、首を振り、
勇治「別にいいんです」
   教師、立つように促す。
教師「さあ、最後の晴れ舞台に行こう」
   ぞろぞろと教室を後にする生徒たち。

 

○同・体育館
   満席の客席、卒業生。
   次々と名前を呼ばれ、壇上に上がる生徒たち。
   勇治も名前を呼ばれ、卒業証書を受け取る。
   客席には杉山の姿。
   杉山、勇治の姿をカメラ撮影している。
 
○マンション・外観
 
○マンション・入口
   地図を手に、周りを見回す勇治。
   勇治に気付いた江本、向かいの道から走ってくる。
江本「正式なオープンは来週なんだが、権利者の勇治くんには一番先に見てもらおうと思って」
勇治「権利者?」
江本「星野さんの財産だよ。このギャラリーの土地と建物は、星野さんの孫である君が相続したんだ。実は、君のお父さんと、弁護士さんとが話し合って、君に内緒でギャラリー星野を作ろうという話になって」

 

○(回想)喫茶店・店内
   江本、杉山に弁護士を紹介する。
   弁護士の胸には弁護士バッジ。
話し合う江本、杉山、弁護士。
設計図を前にアイデアを出し合う。
図案の一つには扉の絵が描かれている。

 

○マンション・入口
   江本、勇治と杉山をマンションの中に案内する。

 

○同・エントランス
   広々としたエントランス。
   一角の壁に、白い布が掛けられている。
   江本、布の前に立つ。
   勇治、江本の前に立つ。
江本「勇治くん、絵を描くことが好きな君に、おじいさんである星野さんからのプレゼントだ」
   江本、布を取り外す。
   現れたのは、木製の扉。
   星野が大切にしていたキャンバスの扉が二重写しに見える。
特徴的な意匠まで寸分違わず再現された立派な扉。
扉の横には《ギャラリー星野》の看板。
江本「星野さん、君と出会ってから、口癖のように言っていたよ。『君が孫だったらどんなにいいか』って。いつか君にこの画廊を譲りたいって」
   勇治、涙が止まらない。
そばで見ている杉山ももらい泣き。
江本、笑って陽気に、
江本「湿っぽいのはなし、なし! さあ、オープンザドア!」
   勇治、涙を拭く。
   扉の取っ手を握る。
   手が緊張で震えている。
   勇治、真っ直ぐ見据えて、力強く、
勇治「ただいま、おじいさん」
扉の向こう側が光輝いている。
   勇治、ゆっくりと扉を開く。

 

(終わり)

 

 

◆執筆後記
 小説「おじいさんのドア」をテレビドラマ用シナリオとして書き直し、応募。見事撃沈。そういうこともあるさ(遠い目)。懲りずにいつかまた書こう。
 地震のシーンは阪神淡路をイメージしたが、東日本大震災で被災した家族を想って描写した。

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