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スリムクラブという過程

一年の最後を締めくくる恒例行事でもあった漫才選手権「M-1グランプリ」が、2010年の第10回を持ち、その歴史に幕を閉じた。

先の大会において、那覇市出身の真栄田と内間によって結成されたお笑いコンビ・スリムクラブが、県勢初となる準優勝という快挙を果たした。

日頃お笑い番組をよく見る私ではあったが、それまで何度かスリムクラブのコントは見ていたものの、漫才は全く見逃していた。
完全なる無印、ノーマークであった。

今回、M-1グランプリの決勝戦で、初めて彼らの漫才を見た私は、心底驚愕した。

「これが漫才なのか?!」

私は叫んだ。大いに叫んだ。

漫才――それは、複数人の滑稽な会話の妙による笑いを客に提供する日本の伝統的な演芸――

漫才の面白さは、演者がお互いに瞬間的に言葉を掛け合う会話の内容、テンポ・間・呼吸、などにあると思うのだが……。

しかしながら、スリムクラブの漫才は、“ゆったり”とは形容しがたいほどのスローテンポの掛け合いである。

そのスローさは、まるで、沖縄の海を描いた風景画のようである。
陽春のある晴れた日の昼下がり。沖縄の青い海を眼下に見渡す公園で、温もりのある芝生に寝転び、時折互いに顔を見合わせては、雨だれのように寸断を繰り返しながら、とりとめなく会話する……。

そこには時間という概念は無い。
穏やかな瞬間だけが積み重なり流れているのみである。

したがって、ここには、漫才を披露するための凝縮した4分間、という概念すら存在しない。
それでは一体これは漫才なのか。

――私はこう考える。

彼らの掛け合いは、ボケに対する、観客と渾然一体となったツッコミ、とのやり取りで構成される、新しい形の漫才なのではなかろうかと。

ボケの1人漫談であるからこそ、観客はツッコミと同じ気持ちになり、心の中でツッコミを入れる(心的ツッコミ)。

通常の漫才が、観客の心的ツッコミを待たずして行われる早いテンポなのに対し、スリムクラブの漫才は、ツッコミ本人の言葉を借りて“観客による心的ツッコミ”を待っているために、スローテンポなのである。

観客の心的ツッコミを待つとは……まさに地上デジタル放送のような双方向のサービスだ。なんという最先端!

通常の漫才が、舞台上で演者同士が勝手に繰り広げるショーケース内の出来事であるのに対し、彼らの漫才は、観客をショーケースの外から中へ引っ張り込み、一体となって行う≪舞台一体型のショー≫なのである。
それを可能にしたのが、漫才の制限時間の4分間を十分に活用した超スローテンポの彼らの漫才なのである。

しかしながら、どうも「超スローテンポ」という言い方がしっくり来ない。
スローテンポという感覚さえ、彼らの漫才のテンポを形容するには早すぎるように思われる。

そこで、一考。
音楽用語で表すならば、速度記号の「Largo(ラルゴ)」が良いのではないか。

≪幅広くゆるやかに≫という意味で捉えれば、なんとなくほのぼのとした掛け合いの感じが漂うが、≪きわめて遅く≫の意味で捉えれば、スリムクラブ特有の会話間の緊迫した沈黙のニュアンスさえも伝わる。

「ラルゴ漫才」

勝手に命名してみた。スタイリッシュな感じさえしてくる。
TIMの顔がチラリと浮かぶが、まあいいとして。

驚愕を持って迎えられたこの「ラルゴ漫才」は、スリムクラブがその進化の過程で生み出した漫才と言えよう。
そのうち、この「ラルゴ漫才」を模倣する者たちも出てくるに違いない。

さて、お笑い番組のネタ見せ番組がことごとく終了し、若手お笑い氷河期が到来している昨今。

今や、多くのバラエティ番組において、お笑い芸人は、若手から中堅・ベテランまでが、ひな壇からメインまでの場所を取り合い、壮絶な下克上を繰り広げている。

そこはもはや、M-1グランプリのような4分間の制限のある戦いはなく、バラエティ番組を見る視聴者という審査員が、出演する芸人たちを温かくも厳しく注視している。

かつてダウンタウン浜田氏が述べておられた。
「売れるのは簡単。しかし売れ続けるのは難しい」

お笑い界に生き残り続けるためには、常に視聴者を満足させる非凡な話芸が必要である。
柔軟かつ独創的な卓越したセンス、そして機知の富んだコメント、そして場によっては奇想天外なリアクションが求められる。

これに応えられない者たちは、煩悶、苦渋、惑乱する中で、輝かしいスポットライトの中から姿を消し去るのである。
嗚呼、なんとシビアな世界!

だからこそ、芸人たちの天下一品の芸を見たとき、視聴者は彼らの芸に心打たれ、陶酔し、もう一度見たい、と切望するのだろう。

とにもかくにも、県勢スリムクラブの健闘に期待したいところである。

ちなみに、私の応援している芸人は、
号泣・チャイルドマシーン・ホームチーム

哀しい哉、我が愛すべき上記コンビは全て解散と相成った。
薄氷を踏み続けることが困難なように、実に厳しい世界である。

《追記》

沖縄話である。

随分前に書いた記事を載せることにした。
内容的に古いのは致し方が無い。ご容赦あれ。

さて、M-1中のネタの中で、スリムクラブ真栄田のボケの言葉、

「世界で一番強いのは《放射能》」

何の因果か、この言葉を裏付ける放射能汚染問題が世間を震撼させている。

 

さらに、とあるトークバラエティ番組で、スリムクラブ真栄田が述べた言葉、

「紳助さんと同じ高級マンションに住んでますよ」

何の因果か、この言葉を聞いたすぐ後に、かの人は芸能界を去っている。

負を引き付けるオーラがあるのか。不思議だ。

言葉と結果に因果関係は全く無いのであるが、何かがある、と思ったのは私だけではあるまい。

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