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愛猫讃歌

 


 

 私は猫が好きである。
 たぶん、どうしようも無く好きなのだろうと思う。

 街中で猫を見かけると、思わず「ニャー」と猫語が口をついて出てきてしまうほどだ。ほれほれ、と猫に向かって手招きし、私の元に猫をおびき寄せるあたり、あたかも不審者である。

 猫をおびき寄せたとしても、写真をパチリと収める程度で、猫に指一本触れることが無いのが悲しいサガである。
 幼い頃からの教育(しつけ)のお陰で、「動物を触ったら手を洗う」という周知徹底された精神により、私は身近に手を洗う場所を確認できない場合は、絶対に猫に触れることは無いのだ。

 自分なりの確固たるポリシーに従いながら、私は猫をこよなく愛している。

 そんな私は、今まで、かれこれ30匹以上の猫を飼ってきた。

 自分から拾ってきたものもあるし、友人から貰いうけたものもある。家の前に置かれたダンボールに入っていた5匹の子猫を引受けたこともある。気づいたら猫が繁殖していたことも、何度もあった。

 猫を飼うためには私一人で飼うものではなく、もちろん家族の協力が不可欠だ。

 一度だけ、交通事故で瀕死の状態に陥った猫を拾ったことがあった。血だらけで身動きもできず鳴いていた猫を拾い、持ち帰った。ダンボールに布を敷き、猫を入れ、温かいミルクなどを与える。もちろん猫が美味しそうに飲むはずも無く、ぐったりと横になったままだ。
 目をキュッと閉じ、ビクンビクンと鼓動するように身体をねじり震わせていた。肝が冷えるような断末魔の鳴き声を夜通し上げ続けた猫は、翌朝には冷たい屍体となってしまっていた。
 無力感に打ちひしがれ、泣きながら猫の亡骸を庭に埋めたことを、今でもよく覚えている。
 呪いの屋敷かと見紛うばかりの戦慄極まりない非情な猫の鳴き声を一晩中聞かされた家族の心中を察すると、申し訳なさで一杯である。

 現在飼育している猫は、室内飼いの箱入りであるが、心臓病の持病はあるものの、至って元気である。心臓に負担にならないように、と猫の大好きなじゃれつき遊びが禁止されたためか、紐や輪ゴムで遊ぶ“一匹遊び”がとても上手である。
 どこから見つけてきたのか、家の隅から輪ゴムを探し出しては、餌皿の中に置いていくという不思議な習性を持つ。
 
 つい先日、ぐっすり就寝していた私の枕元で、飼い猫が可愛らしい声で何度も鳴いた。飼い猫に頭を散々猫パンチされてようやく起きた私の目に飛び込んできたのは、そこにあるべき物では無かった。

 その場所にあるべき物は、携帯電話やメモ帳やペン、本くらいなものであって、ましてやネズミの死骸などでは毛頭無い。
 目の錯覚かと思い、洗面台で顔を洗ってそれを見直しても、そこに在る物は別物と見紛うものでは無かった。
 それは、ムーミン谷にいる悲観主義者のじゃこうねずみではなく、鼻をつくような腐臭を放つ野中のビーチャー(沖縄方言)であった。


 ある朝起きると、枕元にネズミが置かれていた、というまさにその瞬間の決定的写真。驚愕したため画像がブレた衝撃作。

 嗚呼、そんな目で私を見るなよ、じゃこうねずみ。
 お前がせめて、ディズニーキャラクターのミッキーのモチーフと肯んずるくらいに可愛い生物であったなら。その1ミクロンも可愛いらしさのない不気味さは、直視に耐えられない。

 その腐臭漂う持参物を「どうだ!」と言わんばかりに誇らしげに眺める飼い猫の愛らしさ。どこで見つけてきたのかは知らないが、よくもまあ、悠々と枕元まで運んできたものである。
 
 飼い猫の大事な戦利品という持参物ではあったが、死んだネズミは日常生活に欠けても何ら支障は無いため、処分することにした。

 庭の適当な場所を掘り、ネズミを埋める。手向けの花が無かったため、盛土の上にキバナコスモスの種を少しだけ撒いておいた。
 動きの鈍い我が飼い猫に捕まってしまったネズミの短い命に、哀悼する。アーメン。
 

 そして、きっと。陽春の頃。

 沖縄の鮮烈な日差しに照らされて成長したキバナコスモスは、可憐な花を咲かせ、地に埋まり土と同化したネズミの有機養分は、そのコスモスを立派に成長させる。
 庭の片隅で咲いていたコスモスはいつしか、向日葵のように巨大化し、地を揺るがすほどの大木へと成長した・・・
 そのコスモスの木陰で一休み。風が渡る。胸一杯に吸い込む自然風。
 思わずむせそうになり、ふと我に返ると、その風の匂いは、あのネズミの腐臭だったと思い当たる・・・

 そんな訳、ないか。

 コスモスの種に水をやり、家に戻ると、飼い猫が必死に輪ゴムと格闘しているのが目に入った。

 そんな愛猫たちが、私はいとおしい。


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