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リポーターセンス 1


◆ストーリー概要◆

 リポーターセンス。それは凄惨極まりない事件現場と状況を、巧みな臨場的な描写で事件リポートする類いまれな才能のこと――。

 就職活動の道すがら、マリアは偶然にも凄惨な事故現場に居合わせてしまう。テレビ局側にテレビ前での目撃証言を頼まれ、それを披露したことで、マリアはその事件描写の卓抜した能力から事件リポーターに就任することになる。

 緻密な描写は定評だったが、やがて描写を悲惨に凄惨にとエスカレートさせてゆくことで、破綻が訪れてしまう。

 メディアの功罪を描いた社会派サスペンス。


◆ 第1章 ◆

 最初に轟音がした。
 軽い閃光、舞い上がる黒煙、そして燃え盛る炎。

 マリアが交差点の歩道の隅に設置されていた自販機の取り出し口に手を伸ばしたとき、それが起きた。何気なく周りを見回したマリアの目にその光景は飛び込んできた。マリアの目は凍ったように大きく見開き、それを凝視し続けた。

 飛び交う悲鳴。響く怒号。

 そこで一体何が起きたのか、マリアはしばし分からなかった。目を閉じて、目の前に起きた光景を思い出してみた。

   

 大きなトラック。横断歩道で歩いていた人。信号は……自分が見た方角からだと、路上は赤だったように思える。加速するトラック。歩行者。トラック。歩行者。そして―――。

   

 マリアは顔をしかめた。ほんの少し動悸がしている。その瞬間の飛び散る血潮を思い出したためだ。ひどい、ひどい事故だ。本当にひどい事故だった。こんな光景、自分は初めて見た。人が人形のように飛んでいく光景を。夢のように空中に舞い上がった血しぶきを。

 マリアは唐突に胸が苦しくなった。思わず、自販機のそばにしゃがみこむ。目に涙が溢れてきた。声にならない叫びが全身を襲う。身体全体が自分では止められないくらいに激しくワナワナと震えた。ふっと気が遠くなりそうな柔らかな感情が溢れる。マリアは喉を突き上げる熱いものを幾度となくその場に吐き出した。すえた臭いが周りに広がるのも気にならなかった。地面に座ると感じる、脚に焼け付くようなアスファルトの熱さがありがたかった。その熱さは、ともすると、この激しい衝撃で、遠い場所に飛翔しそうな自分を、唯一この場につなぎとめているようだった。この昼の暑さがいつまでも続けばいい、と思った。
 灼熱の太陽が自分に向かって真っ直ぐに降り注いでいる。
 陽光の赤い血潮のような放射線が自分を照らしている。
 もっと自分を照らして照らして照らして照らして照らし―――

   

「ちょっと、ちょっと! お嬢さん!」
 激しく両肩を揺すられ、マリアはうつろになった目を目の前の人物に向けた。
「なに……か?」
  マリアは、わずかに開いた口の隙間から、やっとの思いで言葉を発する。
「大丈夫? あ、俺は怪しくないよ。こういう者だから」
 その人物はその眉を哀しげに寄せて、マリアの顔を覗き込んでいた。そして、肩にかけたショルダータイプのカメラを持ち上げてマリアに見せた。
「さっき報道局にこの事故のニュースが飛び込んできてさ、慌てて飛んできたんだ。キミ、ねぇ、大丈夫?」
 マリアは目の前の男性をしばらくぼんやりと見ていた。
「なに……が?」
 男性はマリアの答えに溜め息をついて目を地面に落とし、しばらく黙り込んだ。
「分かった。キミは今この場にそのままいるんだよ。今から僕が近くのお店で服とか買ってきてあげるから。この汚れた服のままじゃどこにも行けないだろ」
 マリアは男性が何を話しているのかがさっぱり分からなかったが、とりあえず頷いて見せると、その男性は笑顔を見せてその場を立ち去った。

   

 地面が熱い。熱いのはなぜ?そうか。自分は地面に座っているから熱いんだ。なんで自分は地面に座ってるんだろう。こんなに真夏日の日中のオフィス街で、なんで自分は地面に座っているんだろう。 なんで? なんでよ。
 マリアはゆっくりと周りを見渡した。すると、マリアが座っているすぐ横の交差点で、何やら騒然としているのが目に入った。救急車、パトカー、多くの見物人らしき人たち。何があったんだろう。分からないや。
  マリアは首を傾げた。その時、自分の服についている褐色の液体に気付いた。なんでこんなものが自分の服についてるの? 今日は就職の面接なのに。ローンで買ったスーツが台無しじゃない。ちょっとどうしてくれるのよ。
 それにしても、喉がヒリヒリと痛むのはなぜだろう。思わず、口元を手で拭う。ぬるりとした感触を指先に感じた。ゆっくりと自分の手を見つめ、その時、自分の手についたその褐色のものを見て、マリアは初めてそれが自分の嘔吐物だと知った。何で自分は道端で吐いてるの? なんで? なんで?
 そう思ったときに、ふっとさっきの衝撃的な光景が目の前にフラッシュバックした。

   

 そうだ。大きなトラックが走っていたんだ。そして、横断歩道で歩いていた人がいて。赤信号なのにトラックは加速してて。そのトラックと歩行者が―――。

   

 また胸をぐっと突き上げるものが出てきて、耐えられずマリアは何度もその場で吐いた。胸の苦しさで顔が歪んだ。服が汚れるのも気にならなかった。ただ、今自分の中の全部を吐き出すことで、目の前の光景の記憶を全部消し去ることができるような気がしたのだ。

   

 しばらく時が経った頃であろうか、数人の警察関係者が自動販売機の横にうずくまったマリアの元に訪れた。彼らは事故についてのマリアの目撃情報について色々と聞き取っていった。スーツ姿に自分の吐いた物をまとい、目の虚ろな放心状態で事情を訊かれるマリアを気遣うことなく、淡々と聴取は続いた。
「じゃ、また何か思い出したら連絡して」と名刺を渡されて、彼らはマリアの後を去った。しかし、マリアは自分が事情聴取されたことにあまり関せずにいた。そのことは、マリア自身にとって全く何でもないことだった。
  再びマリアは自分でも気付かないうちに、自らの思考のうちに身を沈めていた。

   

 マリアは不思議だった。
 自分はなぜ見知らぬ人が轢かれる様子を見て、自分がこんなにも衝撃を受けているだろうか。人がただあたかも自然現象のように轢かれたことに対する驚愕? 轢かれた人が明らかに絶命をしたその死を目の前で見たことへの衝撃? 
 日常生活から乖離した死。明日の存在を無意識・無自覚に信じている人が明日を失った瞬間を見たという、死の直視。死は、人間の根源的な恐怖だ、とマリアは思った。その恐怖の対象である死は、身近な者や見知った者という言葉で飾られた死ではなく、人間のそこにある単なる生命の断絶という客観的な事実であった。何十年も続いた人の生命の灯火がふっとかき消されるという死を目の前で見て、マリアは肌で恐怖を感じた。死が死が死が死が……目の前で……

   

「おまたせ……って、キミ、ほんと大丈夫? ああ……さっきよりも沢山吐いちゃったみたいだね。可哀相に」
 男性の声に、マリアはハッと我に返った。声のした方を見上げると、TシャツとGパンという軽装で、重そうなカメラを肩にかけた三十代後半くらいの男性が、紙袋を手にして立っていた。
「あの……あなたは」とマリアが不思議そうに尋ねると、その男性は、
「俺はテレビ局の報道カメラマンだよ。俺のことはいいから、それよりもキミ、ちょっと」
 男性はマリアの腕をつかんでゆっくりとマリアを立たせた。少し足が震えたものの、マリアは何とか立つことができた。そのまま、その男性に引かれるようにして、自販機の裏通りをずんずんと進み、あるビルの裏口に入っていった。入るとすぐ、小さなデスクが置いてあり、そこの前に警備服を来た守衛らしき人が座っていた。彼は伏せていた顔を上げ、眠たげな顔でこちらを見つめた。
「さっき話をした通りだから。この子の着替えのために更衣室、借りるよ」
 男性がそう言うと、その守衛は静かに頷いて、マリアに言った。
「階段上がって右手の奥が女子更衣室だから。鍵は開けておいたから、入ったら内鍵して下さいね。シャワーも使っていいですよ」
 そう言うと、その守衛は眠たげに再び顔を伏せた。その守衛の座った椅子が微妙なタイミングで小刻みに揺れる。どうやら眠りに入ったようだ。
 その男性とマリアは階段を上って建物の中を進んでいくと、《女子更衣室》と書かれたプレートの貼られたドアの前に着いた。男性は手にした紙袋をマリアの手にに押し付けると、
「これに着替えたほうがいいよ。今着ているスーツはこの紙袋に入れて」
 マリアは戸惑った。
「でも……。見ず知らずのあなたに、こんなことまでしてもらう理由がないですし……」
「いいから、いいから。気にしないでよ。この服は、後で事故の話を聞かせてもらうお礼、ってのはどう?」
「事故……」
 ふっと事故の光景を思い出し、マリアはすっと足元が冷えていくのが分かった。フラッと身体が横に揺れる。慌てて男性がその身体を支えた。
「事故の話は今は、いいや。とりあえず着替えてからだ。外で待ってるよ」
 そう言うと男性はマリアを更衣室に押し込んだ。


イメージ画像【写真素材 足成】より借用

 更衣室の中で、マリアは途方に暮れて紙袋を見つめた。紙袋を逆さにすると、Tシャツとデニムジーンズ、数枚のフェイスタオルが入っていた。 どうやら着替えたほうがいいみたいだ。確かに反吐にまみれた服を着たこの身体では、電車に乗ろうとしても、乗客にも迷惑がかかるし、おそらくそもそも駅員さんに止められて電車にも乗れないだろう。着替えを買いに行く余裕は、あの事故を目撃した茫然自失状態の自分にあっただろうか。
 これに着替えれば、あの事故の記憶からほんの少し遠くなることができる。男性の心遣いに感謝して、マリアは着替えることにした。自分の服についたその汚れを服を脱ぐときに落として床などを汚さないように気をつけながら、マリアはスーツのジャケットを静かに脱いだ。

   

「ありがとうございました」
 マリアが守衛に深々と頭を下げると、守衛はニコリともせずに、軽くマリアを見やり、そのまま再び深い眠りに入ったようだった。そのまま守衛の元から離れると、マリアはビルの外に出た。
  周りを見回すと、さっきの男性がマリアに背を向けてどこかに連絡している様子だった。マリアはそっとその男性のそばに立った。男性がマリアに気付き、アッという声を上げかけ、慌てて電話の送話口を押さえ、マリアに話し掛けた。
「どう? ちゃんと着替えられた?」
「お陰さまで、ありがとうございました」
 マリアがその男性に深く頭を下げると、男性はそれを制止した。
「いいんだって。それよりもさ、今、時間ある? 落ち着いてきた?」
 マリアは紙袋の中からバッグを取り出し、腕時計を取り出して眺めた。持っていたバッグや腕時計は自分の吐いた物ににまみれていたため、更衣室の洗面所で軽く洗ったものだった。
「もう……面接の時間が過ぎちゃいました。就職の二次面接があったんですけど、もういいです」
 言葉を止めると、あの光景がふっと目の前を過ぎる。このような状態で面接など、できるとは思えなかった。面接の最中に沈黙が生じると、きっとその後、胸の内に漆黒の闇が広がり、その闇からあの衝撃的な光景が鮮烈に蘇ってくるように思えてきた。これで冷静に面接官と受け答えができるなんて、自分の今の心理状態から可能なのだろうか。恐らく、無理だ。
「面接? 就職の予定だったんだ。可哀想に。本当に災難だったね……」
 男性は哀しげに眉間に皺を寄せて目を伏せがちにした。軽くマリアの肩を叩いた。マリアには、彼が自分のことを本気で心配しているように思えた。
 マリアは何だか申し訳ない気分になった。徐々に自分の顔が曇ってくるのが分かった。自分に着替えの服をプレゼントしてくれたこの人に何かお礼をしなければいけない。あの状態のままだったら、自分は、きっと一日中そのまま路肩に座り込んだままだったのかもしれない。座り込んでいる自分自身に気付いても、きっと動くのが面倒になってしまっていたかもしれない。そのまま自分はあの場所で朽ちていたのかもしれない。もしかしたら、もしかしたら……。怒涛のように嫌悪感が全身を襲う。
 マリアはハッと我に返った。静かに顔を上げて、目の前の男性を見つめる。この人はテレビのカメラマン。自分に事故の話をして欲しい、とか言っていたような気がする。そうだ、確かにそう言っていた。もし自分がこの人に事件のことを話すことで、もしかしたらあの事故のことを少しでも自分の中で消化することができるかもしれない。全身を貫いたあの事故の衝撃を、徐々に自分の中で中和させるには、時間の経過も相当に必要かもしれないが、人に話すことで、その中和が促進されるのではないのだろうか。

   

 その時、昔、自分の友達が自分に対して言った言葉を思い出した。
「マリアって、ホント強いよね。しっかりとした自分自身があるっていうか。精神が強いって言うか、気丈だよね」
 五年以上の片思いの果てに、その相手が遠隔地に引っ越すことを知り、自らの恋が終わったことを知ったときも、マリアはそのことを友達に笑って世間話のように話したのだった。本当のところは胸の奥がズキズキと痛んでとてつもなくショックだったのだが、それをみじんも感じさせないように、人前では強い自分をアピールするように振舞ったのだった。弱い自分ではなく強い自分を周りは求めている、そんなプレッシャーを自分自身の中で形成していた。弱い部分を見せると、何かが崩れるような気がしたからだった。
 そう、今回の事故を目撃したように、あまりの衝撃で理性のたがが外れ、強い自分どころか、自ら戻した物にまみれた状態の茫然自失のまま、何もせずに一日を暮れる、そんな弱々しい自分をさらけ出してしまっていた。このままじゃいけない。いつもの強い自分に戻らなければ。
  いつもの強い自分を取り戻すには、早急に自分自身の中であの事件を解決する必要があった。そのためには、そのためには―――。

   

「事故のことで自分に聞きたい、って言ってましたよね。……いいですよ」
 男性がマリアを見て、大きく目を見開いた。
 マリアは、まだ自信はなかった。いつもの強い自分を取り戻すためとはいえ、あの衝撃は強すぎた。きっと悪夢のように光景が脳裏にフラッシュバックするだろうと容易に予測することができた。また吐き気が自分を襲うかもしれない。
 正直なところ、このまま真っ直ぐ家に帰りたかった。ベッドに寝転んで、抱き枕に抱きつきながら、好きな音楽をMDでかけて、それに耳を傾けていたかった。テーブルにはミルクと砂糖がたっぷり入った特製のコーヒーを作る。猫舌だから、やけどに注意しながら少しずつ飲みながら、枕元の雑誌入れに入れた今月号のファッション紙を見て、来月買いたい服をチェックしたり。
 しかし、自分の目の前の欲求に溺れ、本当の目の前の困難から回避しているだけでは、強い自分をいつまで経っても取り戻せない気がした。
 強い自分を、本当の弱い自分が、その隙間を埋めてくれるように求めている。頑張れるだけ、頑張ろう。
「本当に大丈夫なの? 無理しなくてもいいよ」
 男性が眉をひそめて言った。
「大丈夫です。……たぶん」
 マリアは気丈な振りをして答えようとしたが、少しだけ、声が震えた。紙袋を握る手と足が小刻みに震えていた。

   

 喫茶店の奥まった席で、ティーカップの中に沈んだ半月型のレモンをスプーンでグリグリと裂きながら、マリアはその男性が話し出すのを待った。
「まずは自己紹介からだね。俺は神山って言うんだ。よろしく。キミは?」
 神山の差し出した白紙に名前を書きながら、マリアは言った。
「……マリアです。氷田真理、って言うんですけど、"陽だまり"とか、氷を水にして"水たまり"とか言われてからかわれるんで、名前の真理を取って、片仮名でマリア。通称です」
「マリア……素敵な名前だね」
 神山が笑顔になった。その温かい笑顔につられて、マリアのこわばった顔の筋肉がやっとほころび始めてきた。
「お、やっと少し笑顔になったね」
 マリアは恥ずかしくなって何となく目を伏せた。しかし、何とか自分を奮い立たせるように、神山の顔を真っ直ぐに見直した。強くならなければ、そう自分に言い聞かせた。
「事故の話、しましょうか」
「うん。ありがとう。でも今、他のスタッフがこっちに向かってるんだ。あと30分くらいかかると思う。だからその間は、この喫茶店で好きなものとか食べててよ」
 そう言って、神山はマリアにメニューを渡した。メニュー裏面全面に大きなヨーグルトパフェが書かれていて、それが昼から何も食べていないマリアの空腹を誘った。
「いつもなら、甘い物は太るから食べたくないんですけど……今は何か甘い物を食べたい気分」
 マリアは少し照れながら言った。それを見た神山は、手を挙げて店員に合図を送った。
「いいんだよ。食べたいときに食べたいものを食べれば。欲求の赴くままに食べるのが、ストレスフリーの健康の秘訣!」

   

 神山の「欲求の赴くままに」という言葉にマリアはドキッとしてしまった。いつも、太りたくないからと主張して、甘いものを人前では自制して食べることはなかった。甘い物は凄く好きだったが、どうも人前で食べることは、若い女の子と同列に並んでいたダイエットの競走馬から落馬してしまうような、そんな気がしてしまうのだ。強い意志で自制する、それが自分の美徳だと思っていた。外出すると、1人で甘い物を食べることすらできなかった。甘い物を注文すると、店員が陰で「あの子ダイエットしていないのかしら」と言って嘲笑しているような気がしてしまうのだ。だから、甘い物は絶対にダメ。別に太っているというわけでもなく、ごく標準体型でダイエットは別に必要でもないのだが、どうしても人前で甘い物を取ることには抵抗がある。まして欲求の赴くままに人前で甘い物を食べるだなんて、どうしよう。私にはできないよ。できないよできないできないできない―――。

   

「どうしたの? やっぱり体調悪い?」
 神山が心配そうにマリアの顔を覗き込んだ。
「注文したパフェ、来てるよ。気が済むまで食べて」
「はい」
 どうも気分がすぐれないようだ。どうもあらぬ方向へ思考が向かってしまう。今日の自分は変だ、やっぱり。あんな事故を目撃した後だから、しょうがないのだろうか。
 ヨーグルトパフェの山に、柄の長いパフェスプーンを差し込む。軽くすくい上げると、ヨーグルトの下に埋もれていた赤いストロベリーソースが姿を現した。とろりとスプーンから流れ落ちるその赤いソースはまるで、鮮血のようだ。あの事故で飛び散った、青空に映える真紅。赤血球の強い赤色は、テレビで見たことのあるルビーの宝石のごとき美しさ。なんてきれいなんだろう―――。
「マリアちゃん!」
 マリアはがっと肩をつかまれ、ハッと我に返った。向かいのテーブルにいたはずの神山は、隣に立っていて、マリアの顔を覗き込みながら肩をつかんでいた。
「どうしたの? 目が泳いでいるよ。無理ならいいだ。帰ったほうがいいかもしれないし。事故の話はまた今度でもいいし」
 マリアは急いで首を振った。
「大丈夫です。話さなきゃ解決しないんです。これは自分自身の問題ですから」
 思わず口を滑らせてしまったが、神山は別に不審に思わなかったようだ。
「ならいいんだけど」
  その時、神山の携帯電話が電話着信した。
「ごめんね」
 こう言い残し、神山は急ぎ足で携帯を手に喫茶店の外へ出て行った。残ったマリアは、少しずつパフェを口に運んだ。人前で初めて食べる甘い食べ物だった。店員や客などの人の目が気になったが、マリアはまぶたを薄く開け、自らの視界を狭くすることで安心した。口の中で広がるヨーグルトの甘い味と、優しい香りが心を静めるようだった。

 パフェを食べ終わり、冷めたレモンティーを飲んでいると、喫茶店の表を神山が右往左往しているのが見えた。Tシャツに包まれた神山の細身の身体が、喫茶店の窓越しに消えたかと思うと、突如ドタバタと喫茶店に飛び込んで来た。マリアの座ったテーブルに慌しく座ると、
「今から、いい? 表にスタッフが揃ったんだ。気分が落ち着いたのならお願いできるかな」
 マリアは小さくと頷いた。
「大丈夫です。気持ちは何とか落ち着きました」
「それなら行こうか」
 神山がテーブルの隅に置いてあった伝票を手に店頭に向かった。ソファの奥に押しやっていた紙袋を手に取り、マリアは神山の後を追うようにして店を出た。

   

「ライトは?」
「こっちはオーケー!」
「じゃあ、いきま~す」
 喫茶店を出た横の人通りの少ない道で、マリアはテレビの前でインタビューを受けることになった。事故の話を聞く、とだけしか神山は言っていなかったので、マリアはてっきり報道のメモ程度に聞くだけかと思っていたのだが、そうではなかった。
 本格的なカメラと音声マイク、照明にマリアは少し怖気づいた。胸の内に何度も不安が立ち上っては消えた。
「一回リハーサルする?」
 神山がマリアに尋ねた。マリアが目を伏せて首を振った。
「早く終わらせたいです」
「オーケー。分かった」
  神山は隣にいた別のスタッフに小声で耳打ちした。
「リハーサルすると少しリアリティがかけるかもしれない。すぐ撮ろう」
 神山がスタッフと打ち合わせているのを横目で見て、マリアは道端の植木の花壇にちょこっと腰をかけた。
 総勢4人がそこにいた。打ち合わせをする者、路肩に停めてある白のワゴン車から機材を路上に搬出している者。その中にいる神山をぼんやりと見つめていると、ふっと風が吹いて、神山の白いTシャツの背中が軽く揺れた。

   

 白いTシャツ。彼も白いTシャツが良く似合ってたな。5年間の片思いが失恋に終わったのは悲しかったけれど、それは過ぎたこと。彼が自分の嫌いな女子と付き合ったというのを風の噂で聞いて、何で早目に彼に告白しなかったんだろうって後悔した。でも、失恋になると分かっていても、彼が自分に告白しない限り、自分は自分から絶対に告白なんてしなかっただろう。人目を気にして彼を放課後呼び出したりとか、震える手で電話のプッシュボタンを押しかけて止める、などということは自分には決してできない。告白なんて恥ずかしいもの。自分から想いを打ち明けるなんて、強い自分にはありえない。強いからこそ告白するもの? それは違う。自分から相手に好きと告げるのは、弱みを見せるのと同じこと。好きということを相手に伝えた瞬間から、自分は相手から嫌われたくないという心の重荷を背負うことになるからだ。そうなったら強くなんてなれない。自分から告白したら自分の心の強さは壊れてしまう。だから、あの失恋は強い自分の心を崩壊させずに、維持存続させるための運命だったのだ。運命を受け入れて、失恋を悲しがらない、なんて。強くてカッコイイ生き方なんだろう。ねぇ、そう思わない?

   

「それじゃ、いきます!」
 カッと照らされたマリアの上に熱く照らされたライトで、マリアは我に返った。
 そうだ。今からインタビューをするのだ。インタビュー。何のインタビュー? ああそうか、あの事故のことだ。あの事故、あの事故……。
 ふっと蘇ってきた記憶に胸の内が猛烈に痛くなり、目の前が暗くなりそうな気がした。頑張らないと、頑張らないと。耐えて耐えて耐えて―――。
 マリアを前方から取り囲むように固唾を飲んで凝視するスタッフたちの目。ファインダー越しに見つめる神山の目。神山の隣に立った男が、優しげな目を湛えて、柔らかい声でマリアに尋ねた。カメラを見ずに、その男の目を見つめる。
 さぁ、マリア。落ち着いて、落ち着いて。見た通りのことを話せばいいだよ。思い出してみよう。事故の記憶を。
「あの事故、目撃したんだよね」
「はい」
「どんな様子だった? 詳しく教えてくれる? 考えながらでもいいよ。編集し直すから」
「え……と」
 マリアは目の前の男から目を離し、すっと遠くを見つめた。思いがけず口が独りでに開いた。

   

 あの時、自分は―――。
 自動販売機の飲み物の取り出し口に手をかけていました。何気なく横を見ると、真っ先に前方の道路の横断歩道の青信号が目に入りました。そしてその信号を見て、顔を自動販売機に戻そうとした瞬間、横のほうから大型トラックが横断歩道にハイスピードで突っ込んできたのです。
 すると、横断歩道に歩いていた人が、まるで人形のように放物線を描いて吹き飛ばされていきました。打ち所が悪かったのでしょうか、赤い血潮が細かい霧となって高く舞い上がりました。晴天の下、その血しぶきの赤と、青い空の鮮烈で美しいコントラストが今でも目に焼き付いています。そして、トラックはそのままガードレールにぶつかりました。接触したときに、軽い火花のような閃光が輝きました。
 そして、ガシャン、という鈍い嫌な音がしました。何かが潰れてしまったような、胸をわしづかみにされたような痛みを伴った音でした。それはまさしく轟音でした。それが白昼のビル街に轟くように響いたんです。その轟音の波動は、アスファルトの地面が事故現場を中心にして、一瞬ゆるりと波打ち、その地面に生えた雑草がそそけ立ったような感じでした。そして、そして―――。

   

「カット! オーケー、とっても良かったよ!」
 スタッフの声で、マリアはハッと我に返った。今のは何だったのだろう。
 頭で考えるよりも、脳裏のイメージがそのまま口を借りて出てきたという感じだった。驚くほど、自分の中で事故の恐怖は消え去っていた。心の中は、無風状態の海原のように、穏やかな海面のようだった。さっきのインタビューで事故の記憶を話すことで、自分の中の鮮烈な記憶を放出することができたのだろうか。これが、克服ということなのだろうか。インタビュー前に全身を漂っていた何かしらの恐怖が、嘘のように脳裏から消え去っている。再び事故のことを思い出そうとしても、脳裏のイメージはすりガラスが一枚挟まっているように、不鮮明になっていた。
 これはどういうことだろう。マリアはうずくまって考え込んだ。どういうことだろう。どういうことだろう。どういう―――。
 トントン、と肩を叩かれた。顔を上げると、神山の笑顔がそこにあった。
「さっきのインタビュー、最高だったよ!」
 神山の嬉しそうに上気した顔を見て、なぜかマリアの心は弾んだ。恥ずかしくなって、頬が紅潮してくるのが分かった。
「本当ですか? 記憶にあることだけを話したんですけど」
 はにかみながらマリアは言った。どうして自分、照れているんだろう。照れちゃいけない、動揺しちゃいけない。マリアは自分の心理状態がよく分からなくなっていた。
「凄く良かったよ! さっき上司と電話で話したんだけど、マリアちゃん、就職先……探してるんだよね? 良かったら、俺のところのテレビ局に来ない? 報道部なんだけど。考えてくれるかな」
 マリアに向かって神山は顔の前に両手を合わせて拝む格好をした。マリアは突然舞い込んだ就職採用の話に驚いた。
「就職面接は今日の事故でダメになっちゃったんで、採用してくれるのなら凄くありがたいんですけど……。その前に、自分の何が良くて採用しようと思ったんですか」
 マリアが尋ねると、神山はニヤリと笑って、ゆっくりと言い含めるように言った。
「マリアちゃん、キミのリポーターセンスを買ったんだ、僕らは」

   

 マリアは神山と別れると、真っ直ぐ帰宅することにした。途中、買い物の予定があったが、そんな元気も起こらなかった。一人暮らしの冷蔵庫は冷え冷えとしているため、何か食料品でも、とは思ったがパフェの甘ったるさが口中を漂い、お腹が空いていなかったため、何も買う気力が沸かなかった。
 家に着くと、早速、汚れたスーツを洗濯ネットに入れ、洗剤を一緒に洗濯機に放り込んだ。洗濯機のスイッチを入れ、ソファに寝転んだ。テレビのリモコンに手を伸ばし、スイッチを入れる。
 いつもは笑い転げて見るはずのバラエティ番組が面白くない。番組の笑いの溢れる異様な盛り上がりが、なぜか心を締め付けられるように苦しく感じる。テレビのボリュームを下げ、ぼんやりと眺めた。

   

 ―――それにしても、今日は一体何という日だったのだろう。就職面接はできなかったのに、別の会社から採用の依頼を受けるなんて。マリアは大して採用の動機を教えてもらうことなく、安易に神山の申し出を承諾した。何か腑に落ちないものを感じながらも、悪い話じゃない、と考えたのだ。事故を目撃したら、そのインタビューを受けるなんて。  
  いつも通りの時間に、いつも通りのメニューでマクドナルドで食べた朝ご飯。少しだけ太陽の眩しい、穏やかな日差しの朝だった。面接の模範解答を練習するために行った公園でのお昼ご飯。日常が音を立てて崩壊した、その日の午後。それなのに、今はこの異様なほど平静な心。不思議だ。不思議な気分だ。

   

 色々と考えつつテレビを見つめていると、唐突に、テレビの画面であの事故を報じるニュースが始まった。慌ててボリュームを上げる。淡々とアナウンサーが事故の状況を告げた後、場面が変わり、マリアの顔のアップになった。
「自分だ!」
 驚いて思わず大声で叫んでしまった。インタビューを受けたのだから、当然だ。
  画面の中のマリアは、遠い目がどこか悲しげで、細い声が儚げだった。白い面輪の、色を失った血色の悪い唇が、あるかなきかに細かく震え、それが事故の恐怖を如実に物語っているようだった。事故の凄惨さがブラウン管を通して、見る者にじっくりと伝播しているようだった。
 ふと、神山の言葉が頭の中を横切った。
「マリアちゃん、キミのリポーターセンスを買ったんだ、僕らは」
 自分の目撃証言を絶賛した神山。自分のリポーターセンス。自分がそのセンスを生かして事故現場のリポートをする……? 神山の意図がほんの少しだけ分かったような気がした。


イメージ画像【写真素材 足成】より借用

 数日後。マリアはテレビ局に出社した。フロントでプレスカードの提示を求められたが、事情を説明すると、すぐに中に通された。初めて入る異世界ともいうべきテレビ局の中で、周りをキョロキョロ見回しながら、報道局へと向かった。報道部、と書かれたコーナーが目に入ると、そのすぐそばで神山がデスクに向かっているのが見えた。静かに神山のデスクに歩み寄る。
「神山さん。おはようございます。先日はどうも……」
 精一杯、元気よく声をかけた。マリアは自分が少し緊張しているのが分かった。当たり前だ。初出社の日なのだ。それも、自分がなぜ必要とされているのかを知らされずに、採用を判断した会社への出社。ここでの自分の居場所を全く予想し得ないこの段階では、見るもの全てが初めてで、それがどうしても自分を必要以上に不安にさせる。
「あ、マリアちゃん。おはよう。ちょっと今からプロデューサーに会うんだけど、いいかな」
「は、はい」
 緊張した面持ちで答える。マリアはデスクを離れて廊下に向かった神山の後を追った。

「マリア君、君を採用した理由はただ一つ、リポーターセンスだ」
 プロデューサー室に入り、対面ソファの片側にかしこまって腰を下ろしたマリアに対し、プロデューサーは開口一番、そう言った。
「リポーターセンス……」
 マリアは囁くように呟いた。
「そう、リポーターセンスだ。テレビで事件・事故のリポートするリポーターがいるだろう? アナウンサーとか、リポーター専門の人とかが担当しているんだが……」
 プロデューサーは自らの言葉を遮り、強い口調で言った。
「陳腐なんだよ、陳腐! 最近のリポートはみんな型通りなんだ。原稿を丸暗記したり、捜査状況を警察発表のままレポートしたり、中継だって、視聴者が見ているそのままを見たまましか言えないんだ。よく、《レポーターが話さなくても、テレビを見れば分かります》っていう視聴者からのクレームも来るんだよ。
 まぁ、いくら我々が歯痒く思って地団駄を踏んでも、それがレポートの限界だと思っていたんだ。―――つい先日までは」
 プロデューサーの言葉を引き継いで、プロデューサーの隣に座った神谷が真剣な面持ちで答えた。
「君にインタビューをしようと思ったときまでは、別に何も考えてはいなかったんだ。けれど、君のインタビューを受けている姿を撮っていて、これだ! って思ったんだ。リハーサルなしのアドリブで、あんなにイマジネーション豊かに話せる人は、そうはいないよ。いたとしても、カメラ映えする美しさをも兼ね備えている人は、まずいない。それを俺はリポーターの資質、リポーターセンスと言ったんだ」
 プロデューサーが満面の笑みを浮かべて頷いた。
「神山から君の話を聞いたとき、金の卵を見つけたと思ったね。アナウンサー養成をしていない、正真正銘の素人を即戦力として採用するなんて、先にも後にも、君だけだ」
 マリアは眉をひそめて首を傾げた。
「自分が……金の卵、ですか?」
 自分が金の卵だなんて、そんなことがあるのだろうか。今まで、自分自身に才能があると実感できるものに出会ったことはなかった。中学校のときに入部したバレー部は、練習がきつくて一週間で辞めてしまったし、高校のときに入った演劇部は、部員同士の人間関係が原因で1年で辞めてしまっていた。推薦入学で入った大学でも、毎日飲み会ばかりのサークルに嫌気がさして辞めてしまっていた。自分に根気がない以上、金の卵である分野が自分に存在するとは思えなかった。
 しかし……このプロデューサーは、自分に対するたった数分のインタビューだけで、自分のことを金の卵である、と断言している。あのインタビューは、自分はただ思いつくままを言っただけ。ということは、このリポーターセンスは、努力しないでも得られる天賦の才能?
 プロデューサーは相変わらず満面の笑みを湛えつつ言った。
「君を金の卵と言った根拠がある。君へのインタビューを放送した後、視聴者からの問い合わせの電話が鳴りっ放しなんだよ! あの子は誰なんだ、目撃者にしてはコメントの表現が良かった、とな。果ては、またあの子が出る予定があるんですか、ときたもんだ。君への問い合わせだけで一日数百件以上だ。こんな凄い反響の持ち主は、金の卵と言い切っても過言じゃない、と自分は思う」
「はぁ……」
 返事に困って、マリアはそうとしか言えなかった。
「新人をリポーターにすぐ使うなんてことは前例がないから、アナウンス部からの風当たりが強くなるかと思ってな、既に局長の許可は取ってある。局長に君へのインタビュービデオを見せたら、即OKだったぞ」
「……あ、それはどうも。ありがとうございます」
 とりあえず、何が何だか分からないままマリアは軽くお辞儀をした。
「ということで、突然で悪いんだけど、今から現場に行って来て欲しいんだが。神山のチームと一緒に行ってくれ」
 プロデューサーはマリアの全身を舐め回すように眺め、
「服装は……今着ている格好でいいか。意外性を持たせるために、今度からはもっとカジュアルな格好をしてきてくれないか」
「カジュアル……ですか?」
 マリアは、ショルダーバッグから手帳を取り出し、プロデューサーの言葉をメモに取り始めた。
「そうだ。TシャツにGパン、ジャケットくらいでいいな。もちろん、仕事内容が増えたらスーツを着たり、自分で考えて着て欲しい。で、あと……化粧はなるべく薄めに」
「薄化粧、ですね」
「唇は血色の悪さをアピールするために、塗らなくてもいいよ。そのほうが緊迫感があって、リポート内容に凄惨さが伝わりやすいから。流血の殺人ものだったら、口紅の赤が血を連想させるから、赤い口紅をつけたり……まぁ、インパクトだ。自分で考えて色々チャレンジしてみてくれ」
「はぁ……」
 そこまで言うと、プロデューサーの顔から笑みが消え、真剣な面持ちになった。
「今回は腕試し、ということで、思う存分頑張ってきて欲しい。ある事件のリポートをしてもらいたいんだが、完成度が高ければ、夕方のニュースの特集のコーナーで使う。充分な資料、近所の聞き込み調査、裁判の判決文、警察発表、それを総合的に、《君の言葉で》リポートしてくれたまえ。いいね」
「はい」
 マリアはしっかりと頷いた。
「それと、君は、いくら金の卵だと我々が判断したとはいえ、アナウンサーの養成を受けていない本当の素人なんだから、我々の負った様々なリスクを考慮しておくんだ。君は決してスタジオでニュースを読み上げることはない。インパクトの強い事件や事故を、君の感性で《より衝撃的に》視聴者に伝えること、それが君の責務だ」
「《より衝撃的》に、ですね」
 マリアがプロデューサーの言葉を繰り返すと、プロデューサーは大きく頷いた。
「そうだ。陳腐なベテランリポーターと、君のようにリポーターセンスを持った素人リポーターでは、余りにも元々の持ち合わせの武器が違いすぎる。年代物のマシンガンと、切れ味鋭いカッターナイフと言うべきかな。向こうはマシンガンだけに威力はあるが、年代物で単調の動きしかしない。同じ場所にしか狙い撃ちができないんだ。しかし、一方、君の場合は、カッターナイフだから見た目は小さく、威力がなさそうに見えるが、切り方によっては、縦横無尽に対象を斬ることができる。それに、ベテランだと一定の視聴率しか取れないが、君の場合、未知数なだけに、無限の可能性を秘めている。視聴率の、な。
 今日、この場からゼロのスタートラインに立つ君には、丸暗記ではない何かを見つけてくれると我々は信じている。それが、我々は君に求めているものなんだ。他局にはない実に充実したモノを我々に提供して欲しい。我らは君の《真実》のリポートを楽しみにしている。
 付け加えておくが、ただ、君が視聴者にウケたのは、目撃したことを丁寧に描写したからじゃない。他の追随を許さない迫力と臨場感のある《真実》の目撃証言だったからだ。多くの情報を丁寧に細かく伝えることは確かに大切だが、秒刻みで動いている番組には、それは冗長であり不要のものだ。だけど、君のリポートは違う。《真実》には無駄がない。それを君が視聴者へしっかりと伝えて欲しい。―――さぁ、話は以上だ。細かいことは神山に聞いてくれ」
 プロデューサーが立ち上がった。マリアは慌てて立ち上がり、プロデューサーに向かって深々と大きくお辞儀をした。プロデューサー室を後にしようとしたとき、プロデューサーがマリアに歩み寄り、マリアだけに聞こえるように小さな声で呟いた。
「我々は、君のリポーターセンスの威力と可能性を信じたいんだ」
 その目はとても鋭かった。

   

◆ 第2章へと続く ◆


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コメント

おはようございます

携帯から失礼します。

「リポーター・センス」の第一話、携帯電話で拝読しました

感想

もし、琉球の宮さまがメディア関係に勤めた経験をお持ちでなければ、取材ないしは資料集めが大変だっただろうなあ……と思いながら読み進めました。

冒頭、主人公のマリアがひっきりなしに嘔吐するのは、後半にグロテスクな展開が待ち構えている伏線のように感じられました。

まだ、お話の材料が揃ったばかりの段階で、弱々しいコメントを差し上げるのもいかがなものかと思いましたが、何事かお伝えしたく、書き込みをさせていただきました

続きも細く長く、携帯電話の一頁ずつ、毎日拝読したいと思います

九州北部は空梅雨気味です。

梅雨明けした沖縄の日射しは想像もつきませんが、どうか、お体もお肌も大切に。

また、お邪魔します!

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