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おじいさんのドア 3


◆ 第3章 ◆

「行って来ます!」
 玄関で勇治は明るく言った。
「おう!」
 父親は顔を上げて新聞から目を離して言った。
「遅くなるときは、電話ぐらいしろよ!」

   

 地震から一年以上経ち、復興は猛スピードで進んでいた。星野を亡くしたショックは未だに勇治を苦しめていたが、勇治の心は徐々に晴れ間を見せ始めていた。

 勇治が精神的に立ち直り、父親の再婚を受け入れることのできるのには、もう少し時間がかかりそうだと判断した父親は、勇治の心の整理がつくまで結婚相手を家に連れて来ないことを約束した。最近では、結婚相手と三人で外食できるまでに、勇治の心は回復していた。再婚相手を疎ましく思う気持ちも薄れてきた。

 地震後、何度か画廊のあった場所に足を運んだが、星野の葬儀が終わると、次第にそこから勇治の足は遠のき始めていた。画廊は跡形も無く消え、マンション建築が始まったことを江本の手紙で知った。画廊の近くに寄ると、星野を思い出し、悲しみが募る。

 今日は、勇治は江本に呼ばれていた。完成したマンションの新居に移り住んだらしい。今は無き星野の画廊を潰した後に新しく建つマンションのことを考えるたびに、勇治の胸は締め付けられるように痛む。

 どうしてもっと早くおじいさんにマンションから移ることを勧めなかったのか。地震の刺激を最小限に食い止めるためには、あの脆い画廊ではいけなかった。おじいさんの死を早めたのは、自分の努力不足によるものではないのか。キャンバスに拘泥することよりも、おじいさんの身体が大事だったのではないか。さらに、自分が孫であることを教えなかったことも、二重に勇治を苦しめた。

   

 画廊の跡地には、大きなマンションが建っていた。
「こっちだよ!」
 ガラス張りになったマンションの玄関口で、江本と地主が勇治に向かって手を振っていた。
「お久しぶりです」
 勇治が頭を下げる。江本と地主は、「さあ、行こうか」と笑顔で勇治をマンションの中に促した。
「勇治くんに見せたいものがあるんだ。上の階にあるんだよ」

   

 三人はエレベーターに乗って、上階を目指した。エレベーターの中で、江本がポケットの中から名刺を取り出し、勇治に渡した。その名刺の紙面を見て、勇治は驚いた。

「この名刺、弁護士って書いてありますよ!」
「地震の後の混乱で、色々と手続きに戸惑ったみたいだけど、勇治くん、キミが星野さんの孫であることが正式に判明したから、星野さんの遺産を相続することになったんだ。弁護士さんの名刺は、その手続きのために来て欲しいんだって」
「……うん。分かった」
 勇治は頷いた。

「まぁ、星野さんの遺産は小さな画廊分の土地くらいで、大したものではなかったけれど、このマンションの一室が星野さんの部屋だ。つまり、それを相続したキミの部屋になる」
「僕の部屋がこのマンションにある……」
 勇治は呟くように言った。チン、と音を立ててエレベーターが止まった。

「こっちだよ」
 エレベーターを降り、細長い通路を歩くと、奥まった場所に、勇治は案内された。
「見てごらん」


イメージ画像【写真素材 足成】より借用

 勇治は声を呑んだ。声が出ない。

 そこにあったのは近代的なマンションには似つかわしくない―――懐かしく、良く見慣れた、木の扉だった。

 勇治は扉に近づき、木目に手を這わせ、思わず鼻を近づける。本物の木の匂いがする。扉に掲げられた、見覚えのある表札《画廊・星野》の文字。

   

「江本さん、これは……」
 勇治が振り向いて尋ねると、江本は微笑んで言った。

「あのキャンバスを私と星野さんが共同で描いたのは知っているだろう? あのキャンバスの扉の開く日を今か今かと待ち続けた星野さんがきっと心残りだと思ってね。私は絵に描かれた扉を再現しようと思って、扉を作ったんだ」

 勇治は目を丸くして驚いた。
「扉を再現?」
 江本はニヤリと笑った。
「私は本職の家具屋だよ。星野さんとは親友だったんだ、これぐらいのことをしてやらないと」

 勇治の目に涙が溢れた。得も言われぬ嬉しさと温かな想いで胸が一杯になる。
 江本さんの優しさ。おじいさんの想い。そして。

「この場所は、ちょうど、以前のキャンバスが置かれていた場所の真上にあたるんだ。私は星野さんの待ち続けた相手である勇治くんに、一番最初にノックしてこの扉を開いて欲しかったんだ。《ただいま。》と言ってね」

 勇治はコクリと頷き、温かな涙を手で拭った。
「うん。分かった」

 涙で濡れた手をシャツで拭く。勇治は深呼吸をした後、手を拳の形にして、ゆっくりと扉に振り下ろすと、乾いたノック音がマンション通路に響き渡った。
 ノブに手を掛け、扉をそっと開き、勇治は大きな声で言った。

「おじいちゃん、ただいま―――」

   

 勇治は新しい画廊の中を歩き回った後、部屋の窓を開けた。瑞々しい陽光が差し込んできた。その光を見つめる勇治のそばで江本は言った。

「今度はお父さんとおいで。この部屋は、ずっと、キミのものだ。美術学校で学んだ後、いつかキミは、ここで自分の作品を飾るといい。《画廊・星野》として」

 勇治は今度は星野の肖像画を描こうと思った。今までは母の絵を描いていたのに、いつの間にか描かなくなっていた。

「実は、地震前に星野さんのキャンバスの大部分はマンション内の倉庫に搬入して貰っていて無事だ。その中には、キミがショーウインドーで見かけたお母さんの肖像画も含まれているよ。キミが作品を展示するようになったら、星野さんの作品も一緒に展示してやってくれ」

 その時、突然、部屋が軽く揺れたが、すぐに揺れは収まった。
「また地震だな? でも、ここは地震には強い建物だから、安心しなさい」
 地主の声が背後で聞こえた。

 窓から外の景色を眺める。空が近い。青空に一条の飛行機雲。しんとした音。
 胸が、躍る。

   

 おじいちゃん、随分待たせてごめんね。僕は貴方の元に帰ってきたよ。
 おじいちゃん、ありがとう。そして、ただいま。

   

◆ 終わり ◆

   

・・・あとがき・・・

 最後までお読み下さり、ありがとうございます。
 心から感謝を申し上げます。

 この作品は、物書きたちの共同コンテンツ「書き込み寺」の共同企画として書いた作品です。企画のテーマは、
  A:「開かずの扉」
  B:「浮く」
  C: 「原稿用紙50枚以内(400×50)」
 というもので、私はテーマを合わせた形で書きました。

 なお、内容が画家に関係することなので、本文中には美術関係の用語やら何やらがありますが、私自身、美術に関する一切の知識が無いために、適当にイメージして描いています。思い違いが多々あるとは思いますが、ご了承下さい。

 稚拙な文体・内容が目に付きますが、未熟な時期に書いたという点があり、修正してはその当時の幼稚で青臭い雰囲気をも失ってしまうかと思い、誤字脱字程度の推敲をしています。ご理解をいただければ幸いに思います。

 ご感想などございましたら、コメント欄にお寄せください。
 心よりお待ち申し上げております。

 この度はお読みくださり、誠にありがとうございました。

琉球の宮


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小説:おじいさんのドア」カテゴリの記事

コメント

とても感動した。さいごは泣けた。いっぱい涙でた。おとうさんとゆうじがはきっと幸せになれると思う。

こんにちはケイタイからお邪魔いたします(^^;)

いやあ、創作って、本当にいいですね!

先日、拝読いたしました、「運命のエスカレーター」は緊迫感溢れる展開でしたが、今回の、「おじいさんのドア」では第三章を読みながら、不覚にも頬を濡らしそうになってしまいましたキャンバスに描かれたドア……物語のクライマックスを飾るための伏線だったのですね

よく考えて、組み立てられた物語で、かつ、琉球の宮さまの比較的初期の作品らしく、匂い立つような初々しい爽やかな香りを感じます。

この作品を執筆されたときにも、「ライターズ・ハイ」を経験されたのでしょうか?

童話?「青ひげ」を彷彿とさせて、背筋の寒くなるような思いをしながら拝読しました「運命のエスカレーター」と全く印象の異なる今回のお話で、琉球の宮さまの創作の幅の広さがわかりました。

少年が最後まで祖父である星野に自分の身分を明かさなかったあたりは構成上お見事と言うほかなく、星野と孫である少年の関係の純粋さを引き立たせて、さらにその上に彼らの関係を知ることなく亡くなった老人の死が、物語にどっしりとした重みを加えております。

実に、佳話のお手本のような物語でございました

あえて、もの申すといたしますれば、「揺れる」場面が少々多すぎたのかなと思われましたが、最後の少年がドアを開ける場面で帳消しになりました。

次回作に期待大です

ありがとうございました。またお邪魔いたします

涙が止まりませんでした。

ハートウォーミングですね。

本当に素晴らしい。

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