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取調べ、こんな未来

 


 

ある日の取調室での被疑者と警察官との会話。

警察官 「つまりだな、お前は各駅停車の電車内で、向かいに座っていた男性の腹部を、隠し持っていた彫刻刀で刺し、重傷を負わせたんだな。間違いないか」
被疑者 「うん。その通りだよ」
警察官 「何で刺したんだ。動機は?」
被疑者 「それは・・・僕、ずっと心が独りぼっちだったんだ。疎外感、孤独・・・。誰も僕のことを見てくれないんだ。 道で通りすがりの人だって僕のことを気にも留めてなかった。両親だってそうだ。僕のことに関心を示さない。僕は独りぼっちが嫌で嫌でたまらなかった。そんなときに、あの電車に乗ったんだ」
警察官 「なるほど、孤独を感じていたときに、電車に乗ったんだな」
被疑者 「うん。僕は座席に座って、携帯電話で誰かと話す振りをした。電話する相手はいないから、電話は繋がっていなかったんだけど、僕はあることないこと、色々なことを大声でしゃべったよ。 僕は自分のマナーの悪さを誰かに注意して欲しかったんだ。そうされることで、僕は注意してくれた人と言葉や空間で繋がっていられる、孤独じゃなくなるんだって思った」
警察官 「わざと大声で話すことで、誰かから注意されたかったんだな。なるほど」
被疑者 「でも、通話時に僕の目の前に座った男の人は、僕と一度も目を合わさないまま、新聞を読み耽り始めたんだ。注意してもらえない僕は孤独から一歩も抜け出せない。そんなことは嫌だっていう思いが僕を行動へと誘ったんだ」
警察官 「孤独が嫌だという思いから、刺した、と」
被疑者 「うん」

警察官 「孤独が嫌だ、ということと、刺す、という行為との両者の関係はどういうものなんだい?」
被疑者 「え・・・というと?」
警察官 「キミは孤独が嫌だったら人を刺すのかね?」
被疑者 「そうじゃないけど・・・」
警察官 「じゃあ、なんで刺したんだ。今の説明だと、そういうことになるんじゃないのかね?」
被疑者 「うーん・・・。何となく、かな。寂しかった僕を無視したことにムカついて、何となく傷つけたくてチョイ、と刺した、というか」
警察官 「何となく、だと?」
被疑者 「うん」
警察官 「“荒れる少年、白昼の犯行”だな。警察発表で使おう。で、それは俗に言う《逆ギレ》か」
被疑者 「違うよ。【逆ギレ】は、本来なら怒られるべき立場の人が、逆に怒り出してしまうことをいう語(goo辞書)だよ。僕は無視されたから、怒られていないし、それに対して怒ってもいないよ。逆ギレじゃないよ」
警察官 「逆ギレじゃないとすると、どういう心理だ」
被疑者 「だから、何となくムカついたの」
警察官 「ムカついた・・・するとアレか。安易にキレて犯行に及ぶ少年犯罪の多発している昨今の状況を真似したんだな? 模倣犯か」
被疑者 「模倣犯じゃないよ。別に真似したわけじゃないもん。刺したかったから、刺したの」
警察官 「真似したわけじゃないとすると、目立ちたかったんだな」
被疑者 「目立ちたい、っていうのは確かにあるかも。誰からも見られてなかったから、注目を浴びたい、っていうのがあったから」
警察官 「すると、注目を浴びたいっていうことは、愉快犯だな。なるほど」
被疑者 「別に世間を騒がせることが楽しくて刺したわけじゃないよ。僕は刺したからって愉快に思ってないもん」
警察官 「じゃあ、凶器に彫刻刀を使ったのはなぜだ」
被疑者 「ああ、それは、学校の美術の時間で使っていた道具だったから、偶然鞄に入っていたの」
警察官 「その日に美術の時間があったのか」
被疑者 「ううん、学校には行ってないよ。今、学校を休んでいるんだ」
警察官 「どうして学校に行っていないのに、学校で使う道具を持っているんだ」
被疑者 「学校じゃなければ、学校で使う道具を持ってちゃいけないの? 学生鞄やランドセル、学生服は学校に行くとき以外に使っちゃダメなの?」
警察官 「いや、個人の嗜好によるが・・・」
被疑者 「でしょ。僕は彫刻刀の形が好きだったから、持ってたの」
警察官 「世の中に沢山の鋭利な凶器がある中で、なぜ彫刻刀なんだ」
被疑者 「そんなこと言われても・・・鞄の中に入っていただけだから」
警察官 「分かった。稀な凶器を使用することで、意外性を持たせるというわけか。ということは、快楽殺人か」
被疑者 「快楽殺人じゃないよ。鞄に入っていただけなんだ、って」
警察官 「じゃあ、犯行現場を各駅停車の電車を選んだのはなぜなんだ」
被疑者 「何となく。偶然だよ。乗った電車が偶然に各駅停車のものだったんだ。その電車でその男の人を見て・・・って、さっきから何度も言ったじゃん」
警察官 「偶然な訳はないだろう。犯行現場が街中ではなく、敢えて、電車なんだぞ? ああ、そうか。有名な列車の時刻表ミステリー小説に対抗するために、《各駅停車殺人事件》というのを起こしたかったんだろう」
被疑者 「だから、違うって」
警察官 「それから、被害者に中年男性を選んだのはどうしてなんだ?」
被疑者 「それは・・・彼が偶然、僕の目の前に座っていたから・・・」
警察官 「じゃあもし、目の前に座っていたのが、小学生だったら、キミは刺したのかい? 女子高校生だったら? 制服警察官だったら?」
被疑者 「それは・・・」
警察官 「高見盛ならどうだ?」
被疑者 「たぶん・・・ぜい肉が邪魔して彫刻刀は刺さらないかも・・・」
警察官 「グラビアアイドルだったら?」
被疑者 「デートに誘いたい」
警察官 「デヴィ夫人なら? 引田天侯なら?」
被疑者 「たぶん、厚塗りメイクにビックリして逃げる」
警察官 「叶姉妹なら?」
被疑者 「凝視する」
警察官 「・・・ほら、相手が変われば、キミの態度も変わるんだ。相手が中年男性だったのも、何か訳があるんだろう」
被疑者 「さっきから別に何も理由は無い、って言ってるじゃん」
警察官 「そうか、そうか。父親の年齢と同じ中年男性を狙ったのは、父親に対する反発、ひいては、父親の年代の人間によって占められた現代社会への鬱憤を晴らすためだろう」
被疑者 「だから、違うの」
警察官 「ふむふむ。以上を踏まえて、警察の記者発表のメモをまとめよう」
被疑者 「あの・・・」
警察官 「出来た! これは中々面白い記者発表になるぞ。働き盛りの中年男性を無差別に狙い、社会を不安に陥れたこの愉快犯は、現代のキレる少年による彫刻刀を凶器とした快楽殺人だった! この前代未聞の凶行、《各駅停車殺人事件》の真相はいかに! 乞うご期待!うふふ、視聴率30%は堅いぞ! 我が警察署が、湾岸署並みに有名になる一世一代の機会だ。頑張るぞ!」
被疑者 「あの、僕、殺そうと思って刺したわけじゃないよ。傷つけようと思っただけなんだ。傷害事件じゃないの? ねぇ」
警察官 「ああ、もういい。取調べは終わりだ。つべこべ言わずに静かにしろ。さぁて、俺はこれから記者発表の準備するぞ。会見するときのスーツは・・・古いから、今から買ってこようか。経費で落とそう。どうせ国民の税金なんだし」
被疑者 「あの、何を独り言を言ってるの? 僕への取調べは一体どうなったの? ねぇ」
警察官 「会見は夕方にしよう。そうすれば、夕方のワイドショー的なニュース番組で生中継されるぞ。ついでに、《実は、先月、妻との離婚が成立しました。今、恋人募集しています》って書いたパネルを首から下げたら、公共の電波を私用できるばかりか、全国の女性たちにアプローチできるぞ。明日からモテモテじゃん、俺」
被疑者 「あの・・・」
警察官 「今から楽しみだ、うふふ」
被疑者 「一体僕はこれからどうなるんだろう・・・」

   

◆ 終わり ◆

   

・・・あとがき・・・

 最後までお読み下さり、ありがとうございます。
 心より感謝を申し上げます。

 なお、文章に稚拙な部分が多く見受けられるとは思いますが、筆者の文章力の未熟さゆえでございますので、ご容赦下さいまし。

 ご感想などございましたら、コメント欄にお寄せください。
 心よりお待ち申し上げております。

 この度はお読みくださり、誠にありがとうございました。

琉球の宮


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