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多数決、こんな未来


某国の総理大臣と、その側近との会話。

側近 「総理! 例の法案は議会審議では通りそうにありません!」
総理 「例の法案? 何だっけな、その法案」
側近 「ホラ、バレンタインデーに総理にチョコを贈った女性には、褒賞が与えられる、っていう総理待望の法案ですよ。
『イイコトの予感☆総理にチョコを贈ってみ法』という凄い法案名です。贈ってミホ? だなんて、どこかのCMで似たようなフレーズを聞いたことあるし」
総理 「ああ、そんな法案を提案してたっけな。すっかり忘れてたよ」
側近 「そんな無関心じゃ困りますよ。総理が『バレンタインデーに女の子からチョコが欲しい!』って駄々をこねたものだから、気を利かせた閣僚たちが法案としてまとめたんですから」
総理 「そうだったな。すまないな」
側近 「それよりも、この法案、ちゃんと議会で賛成多数を得るんですか? 閣僚たちのリサーチによると、議会審議では賛成を得られなくて通らない可能性が大とのことですよ」
総理 「得るかどうかは、私にも分からん。ただ、過半数の賛成では足らんぞ。9割以上多数の賛成を得られなければ、法案は成立とは言えないな。9割の賛成は、9割の民意だ。まぁ、成立しなかったら、そのときはそのときだ。廃案になれば、私は諦めるぞ。しょうがない」
側近 「潔いですね。9割以上の多数の賛成がなければ廃案だなんて。過半数じゃダメなんですか?」
総理 「我々は国民の代表として議会審議に参加しているんだ。国民がノーなら、我々もノー。仮に議会審議で過半数の賛成が得られたとしても、それはノーともイエスとも言えん。実に曖昧なものだ。過半数の国民の意見ではあっても、過半数の国民が反対しているんだ。これは民意じゃない」
側近 「はぁ」
総理 「民主主義というものはだな、ディスカッション、討議を重ねることに意味があるんだ。法案に反対する勢力があった場合、それが少数派でも、その少数派と話し合い、そのノーの答えをイエスに変えるために、法案の内容を少数派の納得のいくように変化させたり、何度も討議を重ねたりと、色々と努力するんだ。やがて全会一致と言えるほどまでにイエスが全体を占めたときに、意見が一致したといえるのだ。これが民意なのだ」
側近 「そういうものなんですか」
総理 「そうだ。大体、多数決というのは、少数派を無視して審議採決することじゃない。少数派を尊重した上で、少数派と多数派が何度も協議して、その協議の中で内容に納得した少数派が多数派に移行するように努力する、というのが大事なのだ。しかし、これは審議時間が莫大にかかるし非常に面倒なことだ。だが、国は国民あってのものなんだ。大多数の国民の賛成を得られて初めて、ようやくそれが民意となり、国を動かすんだ」
側近 「民意・・・」
総理 「国民みんなが賛成してくれている礎のもとに、我らは在るんだ」
側近 「じゃあ、国民が『チョコを欲しがる総理は嫌ッ!』と思い、支持率が9割を切ったら、総理はクビですね」
総理 「そうだな。確かに、私の考える民意のボーダーラインは9割だ。厳しいようだが、そのラインに到達しないときは、民意に受け入れてもらえないということだから、きっぱりと潔く辞めてやる。内閣総辞職だ。国民あっての国なんだ。国民がいかに幸せに暮らせるか。国民の意見、民意が全てだ」
側近 「それでこそ、一国の代表、総理大臣ですね! カッコイイです」
総理 「うふふ」 

さらに、未来。

側近 「ついに審議3年でようやく例の法案が通りましたね。よくぞまぁ、国民も我慢したものです」
総理 「例の法案?」
側近 「ホラ、総理が『グラビアアイドルとデートしたい!』と駄々こねたものだから、閣僚たちが苦慮して作った法案ですよ」
総理 「何だったっけ?」
側近 「忘れたんですか? 3年も審議していたら、そりゃあ忘れてしまうかもしれませんけど・・・。『グラビアアイドルとデートしちゃ法』ですよ」
総理 「ヒドイ法案名だな」
側近 「こじつけなんですから、しょうがありません。この法案は、グラビアアイドルをデート用に貸してくれた芸能プロダクションには、公的資金を注入するというものです」
総理 「おお、そうだった。思い出した」
側近 「しっかりしてくださいよ、総理。『グラビアアイドルの人権はないのか』と議会は紛糾して、審議に3年も掛かったんですから」
総理 「で、審議結果はどうなったんだ?」
側近 「デートに応じたグラビアアイドルに億単位の報酬を与えることを法案に盛り込んで、ようやく7割の賛成多数で可決しました。
9割の賛成多数を目標に審議していたときは、可決までに5年以上要していましたから、スピード採決と言えますね。もっと審議の効率をアップできないものでしょうか」
総理 「難しいな。でもまぁ、7割でも民意だから、ヨシとするか」
側近 「せめて現状の7割賛成を6割くらいにまで民意のボーダーラインを減らせないでしょうか。このままでは多くの法案を制定することが難しいです」
総理 「考えないこともないな。デートさえできれば。うふふ」
側近 「はぁ・・・。誰のための法案なんでしょう」
総理 「文句を言う暇があったら、法案成立のために奔走しろ」
側近 「はい・・・」
総理 「うふふ」 

さらに、さらに、未来。

側近 「何とか過半数の賛成を得ました。審議に1年掛かりましたが、例の法案はようやく通りましたよ」
総理 「ん? 例の法案? 何だっけ、それ」
側近 「忘れたんですか? 国民全員にチョビヒゲを義務化する『チョットだけ法』ですよ。ヒドイ法案名ですよね」
総理 「うふふ。思い出したぞ。中々面白いネーミングじゃないか」
側近 「いい加減にして下さいよ。総理のワガママに国民は右往左往ですよ。 チョビヒゲにするために、付けヒゲ業界に需要が集中し、パンク寸前。公的資金を注入してチョビヒゲを増産し、各人常時マイ・チョビヒゲを持参するなんて事態に、国民はもう、てんてこ舞いですよ。
誰のための法案なんですか。法案に罰則が無いだけマシですけど」
総理 「面白いじゃないか。うふふ」
側近 「面白いで一蹴しないで下さいよ。大変なんですから。これが民意なんでしょうか、本当に」
総理 「面白ければいいじゃないか。何が問題だ? 過半数は賛成したんだろう。それとも、お前は私の側近を辞任したいのかい?」
側近 「・・・あ、いえ。この法案を国民に浸透させるように頑張ります。ハイ」
総理 「それでヨシ。うふふ」

もっと、未来。

側近 「最近、やけに法案の通るスピードが速いですね」
総理 「そりゃあ、賛成してくれる議員たちが多数いるからだろう」
側近 「少数派とディスカッションを重ねて採決を目指した昔が懐かしいです」
総理 「しょうがないさ。何度も討議して少数派を取り込んだり折衷案を作る手間を考えたら、今の現状が最高だ。少数派ができるだけ選挙に通らないようにして画策したお陰で、今では多数派が議会を占めてしまった。もはや、どんな法案でも通ってしまう。最高じゃないか。賛成多数が占める議会。これぞ民意だ」
側近 「民意というより、数の論理ですね。多数決が全て、という」
総理 「ああ。そういや、大変だったな。どんな法案でも全て通すために、賛成多数の議員で占めさせるのに努力したあの日々よ」
側近 「ええ。少数派に不利になるように、早いうちに選挙制度を大幅に変えたのが良かったのかもしれませんね。それに、賛成多数を得るために、票集めのコマとして、引退した著名なプロスポーツ選手や好感度の高いタレントを議員として擁立したのが、実に素晴らしかったです」
総理 「そうだな」
側近 「これからは、もっと用途に応じて適格な議員を集めましょうよ。まず、強行採決用には、野党の進路を阻むために、体格の良いプロレスラーが欲しいです。他には、答弁中に野党からの鋭い指摘を上手く切りかわすことのできる、話術に富んだお笑い芸人や漫談家も。あとは、野党の答弁を騒々しく野次るために、舞台で鍛えた発声を持つ舞台俳優やリアクション芸人も数人欲しいです」
総理 「じゃあ、そのように今から手配しよう。所詮、資金力の違いだな。多数派になれば、有利に取りか使ってもらおうと、企業からのお金が流れ込む。お金があれば、より多くの多数派議員をゲットできる。さらに多数派になれば、またお金が転がり込む」
側近 「これぞ『多数派スパイラル』ですね。どこまでも多数派になり得るなんて、ミラクルな手法です」
総理 「ミラクルじゃないぞ。現実だ。・・・そういえば、先日私が提案していた法案はどうなった?」
側近 「確か昨日、審議30分で可決されました。」
総理 「30分で可決されたんだなんて、早いもんだな。もう議会審議中に居眠りもできないじゃないか」
側近 「どうせすぐに法案は可決されるのですから、審議の終わった後に眠ればいいじゃないですか。それよりも、あの法案、本当に意味があるんですか?総理が『共通語を関西弁にしよう。楽しそう』と駄々をこねたものだから、閣僚たちが必死に作った『ハヒフヘ法』という法案なんて。何ですか、この誰かのモノマネみたいな法案名。ひどすぎます」
総理 「笑えるじゃないか。お堅い法案名よりも、よっぽどセンスあるぞ」
側近 「笑っている場合じゃないですよ。凄く大変なんです。だって、この法案の事項は義務になっているんです。遵守しないと、罰金や懲役刑に服させることになっているんですよ。刑罰を受けたくないために、国民は大わらわです。法案成立に伴い、教育現場では、現代文の科目を関西弁に変更する取り決めも行われたり、商品パッケージの文字表記も関西弁に変更したりと大騒ぎです」
総理 「面白いじゃないか。うふふ」
側近 「良くないですよ。時報には『12時やでホンマ』と言われ、お店に入るとご陽気に『いらっしゃ~い!』と言われ、電車が発車するときは『乳くりマンボ』が流れ、メガネ店の店員は『メガネ、メガネ』と言うなんて。・・・それにしても、本当にこれは民意なのでしょうか。果たして、議会で審議されているのは、大多数の国民が待ち望んだ法案なのでしょうか。
この民意は歪んでいるんじゃないでしょうか」
総理 「れっきとした民意だ。多数派工作が完成すれば、常時9割以上の賛成を得られるぞ。9割の議員の賛成は、9割の国民の賛成だ。これのどこが民意じゃないというんだ」
側近 「・・・民意ですね、確かに。ハイ」
総理 「多数決は最高だな。病み付きだ。それよりもお前、関西弁を使わないとダメじゃないか。『ハヒフヘ法』には罰則があるんだぞ」
側近 「―――多数決バンザイやで! 『万歳』というか、総理のしていることはむしろ『犯罪』や! ・・・って、誰が犯罪やねん!」
総理 「うふふ。ノリツッコミも楽しいな。それなら、改正法案では、ノリツッコミを義務化した条文を付け加えよう。うひゃひゃ」
側近 「悪代官さま、ちゃうで、あんさんは総理やがな。どこまでもついていくで! ほな、おおきに☆」
総理 「うひゃひゃ。うひゃひゃ」

   

◆ 終わり ◆

   

・・・あとがき・・・

 最後までお読み下さり、ありがとうございます。
 心より感謝を申し上げます。

 なお、文章に稚拙な部分が多く見受けられるとは思いますが、筆者の文章力の未熟さゆえでございますので、ご容赦下さいまし。

 ご感想などございましたら、コメント欄にお寄せください。
 心よりお待ち申し上げております。

 この度はお読みくださり、誠にありがとうございました。

琉球の宮


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